新潟大学の研究グループは,低原子価ルテニウム(III)オキソ錯体が分子内でO-O結合を形成することを世界で初めて実証することに成功した(ニュースリリース)。
⼈⼯光合成を実現するためには,⽔を酸化して酸素を発⽣させる反応(酸素発⽣反応)を効率良く促進する触媒を開発する必要がある。
酸素発⽣反応では,⽔分⼦のO原⼦間でO−O結合を形成する反応(O−O結合形成反応)の活性化障壁が⾼く,触媒なしでは反応の進⾏は難しい。したがって,O−O結合形成の機構を理解し,その重要因⼦を明らかにすることが,⾼活性な酸素発⽣触媒を開発する上で重要となる。
ルテニウム錯体は,多様な原⼦価と配位⼦設計により,触媒活性サイトの幾何構造や電⼦状態を⽐較的容易に制御できることから,酸素発⽣触媒として有望な材料の⼀つ。これまでの研究では,ルテニウム(IV)または(V)の⾼原⼦価を経由してO−O結合が形成されるのが通説だった。⾼原⼦価状態を形成するための⾼エネルギーが必要とされる点が,⾼活性なルテニウム錯体触媒の開発で⼤きな課題になっていた。
研究グループは,ルテニウム(III)ジヒドロキソ錯体(RuIII2(OH)2)を合成した。RuIII2(OH)2は互いに近接した2つのヒドロキソ(OH-)配位⼦を有している。RuIII2(OH)2をpH=11.5のアルカリ性⽔溶液に溶かすと,ヒドロキソ配位⼦のプロトン(H+)が解離し,酸素からルテニウム中⼼への電⼦移動を伴い,O−O結合が形成され,ルテニウム(II)μ-ヒドロペルオキソ錯体(RuII2(μ-OOH))が⽣成することを⾒出した。
X線吸収端近傍構造(XANES),X線吸収微細構造解析(XAFS),18O同位体標識ラマン分光法の実験的⼿法,および密度汎関数理論(DFT)計算による理論的⼿法を⽤いて,RuII2(μ-OOH)のO−O結合を同定した。
RuII2(μ-OOH)のμ-ヒドロペルオキソ(μ-OOH)配位⼦のH+と錯体の⾻格配位⼦のN原⼦との⽔素結合がO−O結合形成の重要因⼦であることを明らかにした。この結果は,低原⼦価ルテニウム(III)錯体によるO−O結合形成を実証した世界初の例で,低原⼦価ルテニウム(III)錯体を経由する⾰新的な酸素発⽣触媒の開発につながると期待されるという。
研究グループは,今回明らかにされた低原⼦価ルテニウム(III)錯体によるO−O結合形成機構に基づいて,今後,⾰新的な⾼活性酸素発⽣触媒を開発し,⼈⼯光合成の構築を⽬指すとしている。