横国大,電子と光子の幾何学的な量子もつれを生成

著者: sugi

横浜国立大学の研究グループは,ダイヤモンド中の電子をゼロ磁場環境で制御することで,電子と自然放出される光子の幾何学的な量子もつれの生成に世界で初めて成功した(ニュースリリース)。

量子インターネットの実現には,遠隔地間で量子もつれを生成することと,その量子もつれを様々な量子デバイスに供給する量子インターフェースの技術が必要となる。

ダイヤモンド中の窒素空孔(NV)中心は,量子中継を担う物理系として優れた性質をもつ。しかしNV中心のスピンを制御するために強い磁場を印加しており,異なる量子系との接続が難しい。そこで,ゼロ磁場で動作する遠隔量子もつれ生成の技術の開発が課題となっている。

量子もつれは,電子スピンと軌道に内在するスピン軌道相互作用が起源。この相互作用によって形成される軌道励起準位の1つではスピンと軌道がもつれているため,軌道が自然放出した光子はスピンと自然にもつれることができる。これを量子もつれ発光と呼ぶ。磁場や電場など余計な外場の無い環境では励起準位が理想的な状態にあるため,高い忠実度の量子もつれが生成できることが期待されていた。

研究グループは独自のスピン量子ビット制御技術で,量子もつれ発光後のスピン量子ビットと光子量子ビットの量子相関測定を可能にし,87%以上の忠実度で量子もつれが生成されていることを示した。

これまでの研究では,印加した磁場により量子もつれが時間とともに変化するため,遠隔量子もつれを生成するためには精密な時間同期が必要。一方,今回の手法は幾何学的な空間自由度を利用しているため量子もつれが時間とともに変化しない。

研究グループが以前発表した,光子からダイヤモンド中の核子への量子テレポーテーション転写を組み合わせれば,従来は必須であった光子の時間,周波数,および空間の精密なモードマッチングを必要としないノイズ耐性のある遠隔量子もつれ生成が可能となる。

さらに研究グループは,マイクロ波光子と通信用光子の偏光状態の条件付きベル測定やマイクロ波光子から通信用光子への偏光状態の量子テレポーテーションが可能であることを示した。

これらの技術を応用すれば,超伝導量子ビットから吐き出されるマイクロ波光子から通信用光子という周波数の大きく異なる量子への変換が原理的に可能。通信用光子はマイクロ波光子に比べてエネルギーが5桁大きく,光ファイバーなどを用いて室温中を伝搬しても量子性が壊れない。

一方,GHz帯のマイクロ波は冷却しないと量子性が壊れるため,マイクロ波から通信用光子に変換することで,超伝導量子ビットはシリコン量子ビットの量子状態をそのまま光ファイバーなどで伝送し,異種量子ビット間での量子接続が可能となる。

研究グループは今後,量子中継ノードのシステム実証を行なっていくとしている。

キーワード:

関連記事

  • 横国大とKEK,量子科学に関する研究を推進するための連携協定を締結

    横浜国立大学と高エネルギー加速器研究機構(KEK)は,2025年10月17日に量子科学に関する研究を推進するための連携協定を締結した(ニュースリリース)。 世界的に注目されている量子技術は,未来社会に向けて革新的なイノベ […]

    2025.11.10
  • フォトニクスのアカデミー賞、SPIEプリズムアワード2026の最終候補者が決定

    国際光学・フォトニクス学会(SPIE)は,2026年Prism Awards(プリズムアワード)の最終候補製品を発表した。 Prism Awardsは「フォトニクスのアカデミー賞」とも称される国際的な表彰制度であり,光学 […]

    2025.11.07
  • 量子研究の卓越を称えて――TOPTICA,BEC 2025で画期的成果を表彰

    光学技術メーカーのTOPTICA Photonics SEは,スペインで開催された国際会議「Bose-Einstein Condensation 2025(BEC 2025)」において,超低温量子ガス分野で顕著な業績を挙 […]

    2025.10.27
  • 科学大,進化した量子誤り訂正法を考案

    東京科学大学の研究グループは,大規模量子計算の実現に不可欠な「量子誤り訂正技術」において,理論上の性能限界に極めて近い効果を持ちながら,高速に訂正する手法を発見した(ニュースリリース)。 実用的な量子アプリケーションの多 […]

    2025.10.22
  • NICT,単一光子の和周波で量子もつれ交換に成功

    情報通信研究機構(NICT)は,単一光子間の和周波発生を用いた量子もつれ交換の実証に成功した(ニュースリリース)。 量子通信や量子計算のような量子情報処理分野では,2つの量子ビット間でのゲート操作が重要な基盤技術となる。 […]

    2025.10.14
  • 横国大ら,光子シングルショット分光システムを開発

    横浜国立大学,ソニーグループ,LQUOMは,量子インターネットを実現する構成方式として有力な周波数多重化量子中継に向けて,単一光子のシングルショット高分解能分光システムの開発に成功した(ニュースリリース)。 量子通信は, […]

    2025.10.01
  • 富士通と産総研,量子技術における連携協定を締結

    富士通と産業技術総合研究所 量子・AI融合技術ビジネス開発グローバル研究センター(G-QuAT)は,量子技術における国際的な産業競争力の強化に関する連携協定を,2025年9月26日に締結した(ニュースリリース)。 この協 […]

    2025.09.29
  • 東北大ら,光子を低損失で切替可能なルーターを開発

    東北大学と情報通信研究機構(NICT)は,量子情報を担う量子ビットとして直接利用できる単一光子の偏光状態や量子もつれ状態を,低損失かつ高度に維持しながら伝送経路を切り替えられるルーターの開発に成功した(ニュースリリース) […]

    2025.09.26
  • オプトキャリア