豊橋技術科学大学の研究グループは,半導体であるシリコン(Si)と磁性絶縁体であるイットリウム鉄ガーネット(YIG)を組み合わせた基板を用いると,チップのように小型化しても,スピン波を広帯域かつ高強度で励起および検出が可能な素子が実現できることをシミュレーションで示した(ニュースリリース)。
スピン波は,電気を流さない磁性絶縁体であるYIGの中を流れることから,次世代の超低消費電力デバイスへの応用が期待されている。
スピン波を使った論理演算素子などの実証が進められる中,研究グループは,このスピン波デバイスをより小さくし,チップサイズに小型化する研究を進めている。スピン波デバイスを小型化する際には,スピン波を励起する素子構造を小さくする必要がある。
研究を進めていく中で,単純にこれまでの構造を小さくするだけでは,励起できるスピン波の周波数帯域が狭く,かつ,強度が小さくなることが分かってきた。これには,スピン波の励起素子の電極構造が関係しているという。
スピン波の励起素子は,2つの電極とYIGによって構成されている。広い周波数帯域,かつ,高強度なスピン波を励起するには,この2つの電極をYIG膜の表面と裏面に形成する必要があることが分かった。
しかし,最近のスピン波デバイス研究におけるYIG膜の厚さは数マイクロメートルからナノメートル台であり,単純に膜の両端面に電極を作れないほど薄くなっている。
そこで,研究では,厚さ1μmのYIG膜を半導体であるSi上に,金属層を介して接着した,YIG-on-Metal(YOM)構造を提案した。YOM基板を使うと,YIGの裏面には電極がすでに形成されているため,表面にもう片方の電極を作るだけで,スピン波励起素子を作ることができる。
この構造をシミュレーションすると,従来の電極構造に比べて周波数帯域が広く,かつ,強度が大きく,性能指数が2倍以上大きなスピン波励起素子が実現できると分かった。提案したYOM構造は,Si基板上に形成されることから,磁性体を用いたスピン波デバイスと半導体を用いた電子デバイスとの融合研究を加速すると考えられるという。
研究グループは,今回のシミュレーション結果をもとに,実際のYOM基板およびスピン波素子を,SiとYIGの両方の材料開発を得意とする信越化学工業,スピン波素子開発を得意とする露サンクトペテルブルグ電気工科大学と,共同で開発を行なう予定。
最終的には,スピン波素子の得意とする機能により,半導体を用いた電子回路の苦手とする機能を補い,総合的に優秀なデバイス・システム開発を目指すとしている。