北見工業大学と国立極地研究所は,衛星観測で得られた雲の相状態(水雲か氷雲か)を判別できるデータから,南大洋及び南極大陸沿岸域での氷雲の存在割合を調査した(ニュースリリース)。
南極大陸を取り巻く南大洋では,大陸由来及び海洋由来の微粒子(エアロゾル粒子)が大気中を浮遊しており,雲粒を生成する核として機能している。
雲粒には水滴と氷晶の2種類があり,上空の気温などによってその構成比が決まるが,エアロゾル粒子の中には,比較的高温な環境でも氷晶の核として氷雲の生成を促進するものがある。氷雲の多寡は,地球が受け取る太陽エネルギー量に大きく影響することから,氷雲が形成される環境を調べることは気候システムとその変動を理解する上で重要となる。
南極大陸や南大洋の上空に存在する大陸由来のエアロゾル粒子の研究は以前より行なわれ,古気候研究にも応用されてきているが,海洋由来のエアロゾル粒子の雲形成への役割については十分に検討されてこなかった。
そこで研究グループは,南大洋や南極大陸に存在する雲の相状態と存在環境を調べるため、Cloud-Aerosol Lidar and Infrared Pathfinder Satellite Observation(CALIPSO)衛星で取得された雲の観測データを使用した解析を実施した。
CALIPSOは,アメリカ航空宇宙局とフランス国立宇宙研究センター共同による地球観測衛星で,雲とエアロゾルの鉛直分布さらには地球の温暖化または寒冷化に与える影響を明らかにすることを目的としている。観測装置として,LIDAR,赤外線イメージセンサー,広視野カメラを搭載する。
その結果,夏季には,上空の気温が約-10℃以上の環境下で,ほかの温度帯よりも氷雲の存在割合が高く,海洋生物由来の粒子が氷晶の核となり氷雲の形成を促進している可能性が示された。
一方,冬季には,海から大気へ雲の核となる粒子を大量に供給する波しぶきが形成される強風時に,上空の気温が約-20℃以上の環境下で氷雲の存在割合が高くなることが明らかとなったという。
この成果では,海洋性エアロゾル粒子が氷晶核粒子として働くことで比較的高温な環境下で大気下層の氷雲が形成される可能性を示しており,研究グループは,将来予測モデルで用いられる雲物理過程の改良に極めて重要な知見を含むとしている。