国立環境研究所(NIES)らの研究グループは,温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(GOSAT)のデータに基づいて南米亜熱帯地域から大気へ放出されるメタンガス量を推定し,2009年から2015年にかけてその変化を解析した(ニュースリリース)。
ブラジル南部からアルゼンチン北東部へと南米大陸中央を縦断するパラグアイ川・パラナ川の流域は,世界最大級の2つの湿原に加え,大小の湿地が無数に存在する世界有数の湿地帯。この地域の湿原は主に川の氾濫により形成される氾濫原(はんらんげん)と呼ばれるもので,その形状や面積はこの地域で起こる洪水の規模や頻度に依存している。
湿原は二酸化炭素に次いで重要な温室効果ガスであるメタンの主要な発生源であり,湿原からのメタン放出量は自然界から放出されるメタン全体の6~8割,人為的排出を含めたメタン総排出量のおよそ3分の1を占めている。
湿原由来のメタンは大気中のメタン濃度の変動に大きな影響を与えることが知られているが,その年々変動を生じさせる要因・メカニズムの全貌については未だ明らかにされていない。
研究グループは,環境省,NIES,JAXAが共同で開発した,世界初の温室効果ガス観測専用の衛星「GOSAT」が観測したメタンデータをもとに研究を行なった。GOSATは赤外線センサー等による温室効果ガス観測センサーを搭載し,平成21年1月の打上げ以降,現在も観測を続けている。
研究の結果,この地域からのメタン放出量の年々変動は降水量・冠水面積の変動によって引き起こされていることが明らかになった。さらにこの地域からのメタン放出量の年々変動が全球メタン排出量の年々変動にも影響を及ぼすことも示唆された。
この成果は,気候変動を引き起こす重要な温室効果ガスでありながら依然としてその変動に多くの不明点が残るメタンの動態について新たな知見を与えるとともに,メタン動態の把握には降水量・冠水面積などをより詳細な時空間スケールで明らかにすることが重要であることを示すもの。
気候変動シナリオに基づくシミュレーションからは南米亜熱帯地域の降水量が将来増加することが予想されており,それに伴う湿原面積・メタン放出量の増大も懸念される。研究グループは,気候変動下での当地域からのメタン放出量をより精度高く予測するためには,湿原面積の詳細なモニタリングとその情報に基づく陸域シミュレーションモデルの精緻化が必要であり,更なる研究の進展が求められるとしている。