沖縄科学技術大学院大学(OIST)の研究グループは,二光子リソグラフィーを用いて,再生するニューロンが正しい方向に伸展するのを促す3Dスキャフォールド(足場)を製作した(ニュースリリース)。
世界中で毎年数百万人が脊髄損傷に苦しんでいるが,脳や脊髄などの中枢神経系のニューロンの多くは再生能力を持っていないため,その再生は非常に難しい。
脊椎内では数種類のニューロンだけが,限られた回復能力を持っている。その上,ニューロンは数ミリまで伸びる必要があるが,瘢痕組織によって伸展が遮られてしまう可能性もある。そこで,人工的なスキャフォールドでその隙間を埋め,ニューロンを助ける必要がある。
ニューロンが適切に伸展するためには,それを支える線維構造である細胞外マトリックスが必要だが,これまで細胞外マトリックスの質感を正確に模倣できるスキャフォールドを,脊髄損傷への用途に適したサイズで製造することはできなかった。
研究では,二光子リソグラフィーにより,標準的な印刷方法よりも全構造をより精密に造形することに成功した。これは3Dプリンターと異なり,必要な場所に材料を噴射させて積層する替わりに,材料を除去することで構造を形成する。
研究グループはまず,ニューロンの伸展方向を誘導する溝やくぼみのあるスキャフォールドを設計した。ニューロンは通常,中心から放射状に伸展するが,損傷によって接続が切断された場合は,直線的に伸展させて両側を橋渡しする方が効率的だという。
次にIP-Dipというポリマーを使用して,さまざまなスキャフォールドを製作した。設計図に基づいて特定の位置にレーザーを照射すると,IP-Dipが反応して硬化する。最後に硬化しなかった余分なポリマーを洗い流すと,最終的な構造が姿を現す。作製したスキャフォールドの材料特性を調査したところ,硬化したポリマーは熱的にも機械的にも安定していることが明らかになった。
さらに,この構造体が生体適合性を持つかどうかを検証するため,脊髄神経節からマウスのニューロンを培養した。また,マウスの運動ニューロンも使用して構造体の試験を行なった。その結果,どちらの種類のニューロンもこのスキャフォールドに付着して伸展することができた。
また,ニューロンが構造体の上だけでなく内部にも伸展するように,スキャフォールドの1つをより多孔質に設計したところ,ニューロンがスキャフォールドのすべての層を貫通することがわかった。
研究グループは今後,別の種類の傷に適した材料やスキャフォールドも設計するという。一方,この技術はコストと印刷に要する時間が課題だとしている。