北海道大学と中国北京大学は,金ナノ粒子のペアを一列に規則正しく配列した人工構造(バルク)の端(エッジ)にペアではない単一金ナノ粒子を配置して構造全体に光照射すると,エッジの単一粒子に近接場とよばれる光が局在化するトポロジカルエッジ状態が発現することを初めて明らかにした(ニュースリリース)。
トポロジカル絶縁体は光の研究領域においても注目されており,同様の概念により光の散乱損失や構造の乱れに耐性のある堅牢な光学構造を作製できることが確認されている。しかし,メカニズムを理解するために重要となる光の空間分布の時間発展などの時間領域の研究はほとんど行なわれていなかった。
研究では,導電性ガラス基板上に直径180nmの2個の金ナノディスクの端をそれぞれ20nm重ね合わせたペア構造を100nmの間隔で一列に並べ,その列の片方の端に直径180nmの単一金ナノディスクを作製した。また,このペア構造の個数を1個から11個まで変化させた。
これらの構造に電場方向が構造の長手方向に沿った直線偏光を照射した際の近接場の空間分布や,その位相緩和時間について光電子顕微鏡を用いて計測した。光電子顕微鏡は,金の仕事関数よりもエネルギーの小さな可視・近赤外光レーザーを励起光源として用いることで,プラズモンの近接場で選択的に起こる多光子励起に由来する光電子を観察することができる。
構造全体に直線偏光を照射すると,ペア構造の個数によらず近接場の空間分布は構造の端に存在する単一金ナノディスクに局在化することを見出した。一方,単一金ナノディスク配置しないペア構造のみの場合には,近接場はペア構造全体に広がり,非局在化することがわかった。
また,単一金ナノディスクに局在化した近接場が消滅する時間(=位相緩和時間)を調べると,ペア構造の数が4個までは4.5フェムト秒程度で,ペア構造のない単一金ナノディスクの位相緩和時間5.0フェムト秒とほぼ同じだが,ペアの数が増えると位相緩和時間は長くなり,ペアの個数が6個以上になると位相緩和時間は6.5フェムト秒程度でほぼ一定値となる。
このことは,単一金ナノディスクに近接場が局在化するトポロジカルエッジ状態が生成する過程において,エッジ状態とペア構造に近接場が非局在化するバルク状態との間でエネルギー振動が生じていることを示すという。このエネルギー振動が存在することはシミュレーションによっても再現された。
研究グループは,研究で示した1次元のトポロジカル構造を2次元,3次元と発展させることによって新たな光デバイス作製への応用が期待されるとしている。