九州工業大学の研究グループは,準結晶における強磁性長距離秩序を理論的に発見し,準結晶と共通の局所原子構造と周期性をもつ近似結晶におけるトポロジカルホール効果も理論的に発見した(ニュースリリース)。
通常の結晶では原子は周期的に配列しているが,周期性をもたない原子配列をもつ結晶が存在することが1984年に発見され,そのような新たな結晶構造をもつ物質群は準結晶とよばれている。
準結晶の特異な結晶構造のもとで,どのような電子状態が実現するかはよくわかっておらず,その解明が注目を集めている。特に,準結晶の3次元結晶構造のもとで磁気長距離秩序が実現するか否かは未解明の重要な問題だった。
今回の発見は,希土類元素のテルビウム(Tb)からなる準結晶Au-SM-Tb(Auは金,SMはSi,Ge,Sn,Alなどの元素)のTbサイトにおける結晶場を理論的に解明し,Tbの磁気異方性をとり入れた有効磁気模型を構築することによって得られたという。
理論計算の結果,各20面体の頂点に位置するTbの4f電子の磁気モーメントがフェリ磁性状態を形成し,それらが一様に配列した基底状態(強磁性長距離秩序)が実現することがわかった。また,Au-SM-TbのAuとSMの組成比を変化させることで,渦巻き状態をはじめとする様々な磁性状態を生成できることもわかった。
さらに,この渦巻き状態は,近似結晶において反強磁性長距離秩序を形成し,磁場をかけると磁化が急激に増加するメタ磁性転移を示すと同時に,トポロジカルホール効果を示すこともわかったとする。
この発見は,希土類系準結晶と近似結晶の磁性の研究にブレイクスルーをもたらすもの。研究グループは,特に,最近実験により発見されたTb系準結晶の強磁性長距離秩序状態の理論解明や,新しい磁性の解明,ならびに物質の新機能の開拓につながることも期待されるとしている。