理化学研究所(理研),高輝度光科学研究センター,電気通信大学は,内殻電子を失った原子(ホロー原子)を利用した「非線形光学効果」によって,X線自由電子レーザー(XFEL)施設「SACLA」から出射されたX線レーザーの時間幅(パルス幅)を短くすることに成功した(ニュースリリース)。
米国のLCLSや日本の「SACLA」といったX線自由電子レーザー(XFEL)による高強度X線が利用できるようになったことで,これまで数種類のX線非線形光学効果が発見された。しかし,発見された非線形光学効果は非常に小さいもので,実用に足るX線非線形光学素子は実現されていなかった。
物質に光子エネルギーを変えながらX線を照射していくと,吸収端でX線の吸収が劇的に大きくなる。これは,光子エネルギーが内殻電子の束縛エネルギーを超えると,電離(原子からの電子の放出)が起こるようになり,X線と物質との相互作用が大きくなるため。特にXFELでは,チタン,鉄,銅などの周期表の4列目に位置する原子を含んだ物質に対して効果的に電離を起こすことができる。
電離が起こると,内殻に穴があいた原子(ホロー原子)が生成される。ホロー原子は電気的に中性でないため,原子核と電子が強く引き合うことで電子の束縛エネルギーが増加することから,通常の原子と比較して,吸収端がより高いエネルギーにシフトする。
今回,研究グループは,集光したX線パルスを厚さ10μmの銅の薄膜に照射することで,パルスの前半部分で銅の原子をホロー原子へと変化させ,パルスの後半部分ではホロー原子を通過する状況を作り出した。通常の原子とホロー原子とではX線の吸収のされ方が大きく異なるため,銅の薄膜を通過後のX線のパルス幅は通過前のパルス幅よりも短くなることが期待される。
実際に,通過前後のX線のパルス幅をそれぞれ計測した結果,通過後のパルス幅が約35%短縮されていることを確認した。さらに,シミュレーションにより,薄膜の厚みやX線強度を変えることで,XFELのパルス幅を自在に制御できることを示した。
ホロー原子を利用した非線形光学素子は,X線領域における初めての実用的な非線形光学素子となるもの。この光学素子は物質の厚さやX線の強度を変えることで,X線のパルス幅をさまざまに変化させることができるという。
研究グループは,この光学素子を利用することで,XFELのパルス幅を自在に制御することが可能になるほか,アト秒のパルス幅のXFELを実現することが期待できるとしている。