科学技術振興機構(JST)は,山陽小野田市立山口東京理科大学の研究成果をもとに,ロータス・サーマル・ソリューションが開発をしていた課題「自発的冷却促進機構を有する高性能車載用冷却器」について,目指していた成果が得られたと評価した(ニュースリリース)。
HEVで採用が見込まれるSiCパワー半導体パッケージでは小型化が進み,半導体の面積当たりの消費電力が増加しているため,現在利用されている循環型の水冷方式では十分な冷却が難しくなりつつある。
これに対し,冷媒の蒸発潜熱を利用する沸騰冷却方式は,水冷方式に比べて高い冷却熱流束を持ち,以前から,高い冷却効率が求められる用途で利用されてきた。しかし,沸騰冷却方式には,冷媒に熱を伝える面(伝熱面)に限界熱流束(CHF)を超えた熱が流入すると,冷却能力が急激に失われてしまうという課題があった。
沸騰冷却において熱負荷が増加すると,ある点で伝熱効率の良い核沸騰が維持できなくなり、加熱面が蒸気膜で覆われた膜沸騰へ突然遷移する。遷移点での熱流束(単位面積あたりの熱流,単位[W/cm2])を限界熱流束という。
山陽小野田市立山口東京理科大学では,発熱体に接触する銅などの熱伝導体に,幅1mm程度の溝を一定間隔で彫り込んだもの(グルーブ)とロータス金属(レンコン状の多孔質金属で,多数の細長い気孔が同一方向に配列している。気孔に冷媒を流すことによる冷却特性を持つ)を組み合わせることで,膜沸騰が起こりにくい構造を実現していた。
そして,今回の開発では冷却性能を決める重要な要素が,グルーブとロータス金属の気孔の寸法にあることを見いだし,冷媒に応じて適切な溝の断面積と気孔径を求める手法を確立した。
その結果,水を冷媒に利用した場合,従来はCHF200W/cm2程度であったものが,小型サイズ(冷却面:10mm×10mm)の冷却器でCHF530W/cm2以上,大型サイズ(冷却面:65mm×65mm)の冷却器ではCHF270W/cmw2を達成した。
また,フッ素系不活性液体冷媒を用いて試作した沸騰冷却器においても,開発した技術を適用することで,発生した蒸気と冷媒の流れを分離し,蒸気の速やかな排出と,冷媒の安定供給が両立できることを示したという。
さらに,フッ素系不活性液体冷媒を用いてワークステーション(業務用高性能コンピューター)向けCPUクーラーへの適用を検討し,試作品において,既存製品と同等の冷却性能を半分の冷却器体積で実現できることを示した。
これは,高発熱密度化する車載用のパワー半導体の熱集中問題を解消する技術として期待されるもの。研究グループは,従来のワークステーション向けCPUや大型サーバーの高効率な冷却技術としても考えられるとしている。