慶應義塾大学の研究グループは,健康な人を対象に40Hzガンマ周波数帯域のバイオレット光を照射する眼鏡を用いた臨床研究を行ない,同光刺激は40Hzの白色対照光と比べ、認知機能に関わる可能性のある脳波変化を引き起こすことを世界で初めて示した(ニュースリリース)。
近年,光生物学的なニューロモジュレーション(脳神経機能を物理化学的に神経修飾する医学技術全般)とその臨床応用が研究されてきている。
ヒトの視覚情報処理において,脳内の視覚系のアルファ振動と認知機能に関わるガンマ振動の機能的結合は重要な役割を果たしていると考えられているが,外部からのガンマ周波数帯のバイオレット光の刺激がヒトの脳波に与える影響を実際に調べた研究はこれまでなかった。
この研究は,40Hzのガンマ周波数帯のバイオレット光刺激がヒトの脳波活動に及ぼす特異的な影響を同条件の対照白色光と比較検証することで評価することを目的とした。
健常被験者を対象としたバイオレット光による臨床研究で,認知機能の改善と関連する可能性のある脳波のニューロモジュレーションを世界で初めて実証した。具体的には 40Hzのバイオレット光視覚刺激によって,光刺激中には左前頭部におけるアルファ位相およびガンマ振幅の有意なカップリング増強が起こり,光刺激直後には右中心部における同カップリング増強が引き起こされることが示された。
脳の中では,脳波のシータリズムやアルファリズムなどの比較的ゆっくりとした脳波リズムの位相とガンマリズムをはじめとした早い脳波リズムの振幅が生理学的に適切なタイミングで組み合わされることで,効率的な情報処理がなされることが知られている。
特にヒトを対象とした研究では,その位相・振幅カップリングの増強が認知機能のパフォーマンスと関連していることが報告されている。さらに,健常被験者に対する 40Hzバイオレット光の短期的照射は眼をはじめとした身体に対して,明らかな有害事象をもたらさないことを確認したという。
研究グループは,今後は軽症のうつ病患者を対象に同40Hzバイオレット光照射を行なう特定臨床研究を実施することで,うつ症状や認知機能に対する効果の検証と,それらに関連した生物学的治療メカニズムの解明を目指していく予定だとしている。