産業技術総合研究所(産総研),総合科学研究機構(CROSS),オーストリア ウィーン工科大学,イムラ・ジャパンは,鉄系磁性高温超伝導体EuRbFe4As4の超伝導とユーロピウム(Eu)の磁性が共存する状態で,磁束量子の向きによってスピンの向きが決まる現象を発見し,これを利用したスピン配列の制御に成功した(ニュースリリース)。
近年,従来技術を凌駕する性能・機能をもたらす量子力学の原理に基づく技術(量子技術)に関心が高まっている。一例として,超高速演算が期待される量子コンピューターでは,超伝導量子ビットを演算子として利用する超伝導量子回路が注目されている。
一方で,メモリー機能などは磁性(スピン)を利用した量子技術が先行しており,超伝導量子回路では確立されていない。超伝導材料で磁性を利用できれば,超伝導メモリーを創出できる可能性があり,量子コンピューターの性能向上や,既存のメモリーにはない新機能の創出につながると期待される。
しかし,超伝導と磁性は互いに競合する性質があり,同じ物質の中で両者が共存し,機能することは難しい。ごくまれに,超伝導と磁性が共存する物質(磁性超伝導体)が存在する。ただし,既存の磁性超伝導体は臨界温度(Tc)が1K以下と非常に低いか,Tcが10K級でも1T(テスラ)未満の弱い磁場の印加で超伝導性を失うものしか報告されていなかった。
超伝導と磁性の両方の機能を利用できる可能性を秘めた磁性超伝導体を実際にデバイス材料として利用するには,Tcが高く,磁場を印加しても超伝導性が失われない物質の探索が求められていた。
産総研で最近発見されたEuRbFe4As4は,高い温度で両者が共存する極めて珍しい性質を持ち,新現象が起こり得る物質として注目されている。、
研究グループは,EuRbFe4As4にいったん強い磁場を印加し,その後,磁場をゼロに戻しても,試料中の大部分のスピンが強磁性配列のままであることを明らかにした。
これは,EuRbFe4As4では外部磁場がゼロでも磁束量子が試料内に捕捉されており,この磁束量子によりスピンが強磁性配列されていることを示すという。本来は超伝導と相性が悪いはずの強磁性配列が,超伝導が作り出す磁束量子によって安定化されるという新現象を捉えることに成功した。
今回発見した現象は,超伝導体内で磁束量子の情報をスピンの情報に反映できることを示唆しており,メモリー機能などに応用できる可能性があることから,高速・低消費電力のオール超伝導回路の実現に向けた要素技術につながると期待されるとしている。