東大ら,中赤外光パルスで超高速磁気異方性を制御

東京大学,大阪大学,独コンスタンツ大学は,次世代スピントロニクスデバイス材料の一つとして期待される希土類オルソフェライトにおいて,中赤外パルス(波長30-40µm)を用いて,磁気異方性の鍵となる電子状態の光制御に成功した(ニュースリリース)。

高速なスピン方向制御に有望な技術の一つとして,フェムト秒パルスレーザーを用いる方法がある。

研究グループは,超高速時間スケールにおいて電子系と格子系が磁気異方性変化を引き起こす詳細な機構の解明を目指して,弱強磁性体である希土類オルソフェライトSm0.7Er0.3FeO3を用いた光学測定を行なった。

この物質はスピン再配列転移(SRT)という相転移を持ち,室温付近で反強磁性ベクトルの方向が回転するという性質を示す。再配列転移ではスピン方向が磁気異方性に対して敏感に変化するため,光励起後に生じるスピンダイナミクスの波形から,磁気異方性の時間変化を追跡できる。

またこの物質は中赤外領域にSmイオンの4f電子系による光吸収(周波数33THz=波長30µm)および光学フォノンによる光吸収バンド(周波数25THz=波長40µm)を持つ。ここではこれら二つの吸収帯に共鳴させた中赤外フェムト秒レーザー光を用いて,4f電子系とフォノン系それぞれを励起し,スピン応答を近赤外レーザーのファラデー効果によってプローブすることで磁気異方性の変化ダイナミクスを詳細に調べた。

まず中赤外光の周波数を25THzに合わせてフォノン系を共鳴励起したところ,光吸収から数ピコ秒遅れて再配列転移が生じ,単純な加熱の場合は格子系が熱平衡に達するまでの時間によってスピンダイナミクスが律速されていることがわかった。次に中赤外光を33THzに合わせて4f電子系を共鳴励起したところ,光吸収直後から即座に再配列転移が始まることがわかった。

これは4f電子系がFeスピン系との間に超交換相互作用を持つため,4f系の電子状態変化が即座に磁気異方性変化を引き起こすことが可能なためであると考えられるという。この超高速な磁気異方性変化にかかる時間スケールは数10フェムト秒程度であり,格子系の熱緩和やスピン系のダイナミクスよりもはるかに高速に引き起こされる。

このことから,希土類4f電子系の光励起は,フェムト秒~ピコ秒で動作する磁気デバイスのスピンダイナミクスのトリガーとしての可能性が示された。研究グループは,この方法で様々な磁性体における磁気異方性変化の過程を調査することが可能だと期待している。

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