豊橋技術科学大学と大阪工業大学は,テラヘルツ光を観測プローブとし,高分子結晶構造の異なる「ポリ乳酸」の広帯域テラヘルツ分光分析を行ない,従来のX線回折などでは捉えにくい高次構造の変化を高精度に検出することに成功した(ニュースリリース)。
バイオマスプラスチックの歴史は浅いため,基礎的知見は十分に蓄積されておらず,普及の妨げとなっている。
また,目的の機能を得るために,バイオマスプラスチックの高次構造をどのように変えればのかという問いに応える非破壊・非侵襲の分析技術の確立が強く望まれている。
従来の評価法としては,示差走査熱量測定(DSC)やX線回折測定(XRD)などがあるが,DSCでは試料の破壊を伴い,XRDでは長時間計測や人体に悪影響,熟達した解析知識が必要などの問題点があった。
そこで研究グループは,テラヘルツ光(1~10THz)に着目し,プラスチックの構造と物性評価に適した手法として利用できるのではないかと考え,多種多様なプラスチック材料の分光分析を進めてきた。
今回,バイオマスプラスチックのひとつであるL体ポリ乳酸の高次構造に起因する明瞭なテラヘルツ光吸収ピークの観測に成功した。ポリ乳酸は結晶化温度を変えることで,α晶(110°C)やδ晶(80°C)などの異なる結晶構造を形成することが知られている。
研究グループはこの特徴に着目し,結晶化温度の異なるサンプルを詳細に作り分け,結晶構造と吸収スペクトルの比較を行なった結果,α晶とδ晶では4~5THz帯のピーク強度に明瞭な相関関係があることを初めて見出した。
今回提案する分光学的手法が確立すれば,吸収スペクトルによる高次構造の推定が容易になるだけではなく,多種多様なバイオマスプラスチックの高次構造の解明や制御,新機能発現といった物性研究の新たな未来を切り拓くことが期待されるという。
一般にポリ乳酸は鏡像異性体(L体とD体)を混合することで共重合体(ステレオコンプレックス)を形成することが知られている。研究グループはこれまでの知見を踏まえ,今後は観測対象を鏡像異性体へ拡げ,さらには微生物による生分解性や劣化の進行とテラヘルツ帯に現れる特異な吸収スペクトルとの比較により,バイオマスプラスチックの機能性の起源に迫ることが可能になるとしている。