東京大学の研究グループは,筒状分子と最小ダイヤモンド分子(アダマンタン)を組み合わせた小さな分子の機械「分子ベアリング」をつくり,この分子ベアリングの回転周波数が,テラヘルツ領域にあることを発見した(ニュースリリース)。
炭素原子には種類があり,代表的なものとしてはsp2炭素やsp3炭素などが知られている。sp2炭素はフラーレンやカーボンナノチューブをつくりあげる種類の炭素原子であり,ナノカーボンの基本構造として近年,開拓されてきた。
sp3炭素の代表例としてはダイヤモンドが知られているが,ごく最近,「小さいダイヤモンド」であるナノダイヤモンドが,新しいナノカーボン材料として注目を集め始めている。そこで,sp2炭素とsp3炭素を組み合わせたナノカーボン物質はどのようなものになるか,注目が集まっていた。
この「sp2炭素とsp3炭素の組み合わせのハイブリッドナノカーボン」は材料科学分野や理論科学分野での検討が始まっていたが,これまでに実験と理論で相反する結果が出てくるなど,謎多き物質となっていたという。
今回,研究グループは,「sp2炭素とsp3炭素の組み合わせのハイブリッドナノカーボン」を,分子性物質として登場させることに世界で初めて成功した。そして,組成・構造が明確な分子性物質とすることで,その基本的物性を探ることができ,その結果,「テラヘルツ領域での超高速分子回転」という異常な回転挙動が見つかった。
研究グループは,まず,「最小ダイヤモンド分子」として知られるアダマンタンを筒状分子のなかに閉じ込め「分子ベアリング」を組み立てた。そして,その固体を核磁気共鳴スペクトル(NMR)によって調べた。
その結果,内部の最小ダイヤモンド分子が超高速回転しており,高温で「慣性回転」により「テラヘルツ回転周波数」領域に至ることを見つけた。これは、分子機械の固体内回転として,回転周波数の史上最高値を記録したものとなるという。
テラヘルツ周波数は,さまざまな分野での新技術・新科学として注目されているが,研究グループは,この領域の超高速回転が,固体のなかの分子回転で実現できることが明示されたことで,さまざまなテラヘルツ分子材料の設計・合成への期待が高まるとしている。