神戸大学,大阪大学,量子科学技術研究開発機構は,レーザーで加速された炭素イオンと酸素イオンを固体飛跡検出器で分別検出する手法を開発した(ニュースリリース)。
レーザー駆動イオン加速は,次世代型小型加速器としての応用が期待されるが,そのためには発生させたイオンビームのイオン種やエネルギーを特定することが重要な課題となる。特に,炭素イオンの加速を主目的としたレーザー駆動イオン加速研究においては,不純物である酸素イオンも同時に加速されるため,その割合を知る必要がある。
レーザー駆動イオン加速研究において,発生させたイオンビームのイオン種やエネルギーを特定するために最も広く用いられている手法として,静電場と静磁場を用いて,イオンをその質量電荷比とエネルギーによって分別するトムソンパラボラがある。
しかし,トムソンパラボラは質量電荷比が同一のイオンは区別できないため,炭素イオンと酸素イオンを分別可能な新たなイオン検出方法が求められていた。
研究では,炭素イオンと酸素イオンを区別するため,感度の異なる二種類の固体飛跡検出器を利用して,これらイオンを分別計測する方法を開発した。固体飛跡検出器は,イオンの通り道をエッチピットと呼ばれる跡として可視化する検出器で,例えば,身近にあるペットボトルの材料であるポリエチレンテレフタレート(PET)も検出器の一つ。
今回の実験では,炭素イオンよりも重いイオンに感度を示すポリカーボネート(PC)と,酸素イオンよりも重いイオンに感度を示すPETを用いた。それぞれの材料の感度の違いは加速器施設を用いて事前に調べた。そしてこの検出手法を,炭素薄膜を用いて,量子科学技術研究開発機構関西光科学研究所J-KARENレーザー装置で実施されたイオン加速実験に適用した。
計測結果を見ると,PCには多くのエッチピットがあり,PETには少しのエッチピットしかない。すなわち,加速されたイオンのほとんどが炭素イオンであり,検出されたエッチピット数から,加速された14MeVを超える高エネルギー重イオンの内93±1%が炭素イオンであることが示された。
レーザー駆動イオン加速では,これまでにも静電場と静磁場を利用したイオン計測手法が用いられてきたが,その方法では明らかにできなかった事実が,固体飛跡検出器を利用した本研究で開発したイオン検出手法により明らかとなった。
研究グループは,今回開発した検出手法を用いることでより高純度な炭素イオンビーム発生に向けた研究が加速され,その応用に一歩近づくとしている。