産業技術総合研究所と先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)は,金属酸化物の固体表面解析に必須の動的核偏極核磁気共鳴法(DNP−NMR)で高速・高分解能なスペクトルを得ることができる測定技術(新型パルスプログラム)を開発した(ニュースリリース)。
固体触媒,太陽電池,量子ドット,マイクロエレクトロニクス部材などの部材性能は,表面特性に大きく依存する。このような次世代のナノ材料開発においては,材料設計指針を得るために,表面の化学構造の解析が重要な課題となる。
そこで有効な分析法の一つが核磁気共鳴法(NMR)分光法だが,分析対象の表面部分は原子の数が少なく,感度が低いNMRでは構造解析が難しい。
動的核偏極核磁気共鳴法(DNP-NMR)装置は,原子核よりも大きな磁性を持つ不対電子を使用して,固体表面の原子核の微弱なNMR信号を高感度に観測できる。DNP-NMRは固体表面の化学構造を調べる手段として適しているが,従来,その適用範囲は主に核スピン量子数2分の1を有する1H,13C,15N,29Siなどの原子核に制限されてきた。
一方,表面特性が重要なナノ材料では,化学構造に酸素原子を含む場合が多いため,17OのDNP-NMR測定が望まれてきた。しかし,核スピン量子数1以上を有する17Oをはじめとする四極子核では,測定感度およびスペクトル分解能が低いという課題があり,NMR信号の観測とスペクトル解析が難しい原子核だった。
研究所グループは,2020年に四極子核をDNP-NMR測定できるD-RINEPTプログラムを開発し,固体表面上の17O,67Zn,95Mo,47,49TiなどのNMRスペクトルの観測に成功している。
今回,D-RINEPTプログラムをさらに進化させた。D-RINEPTプログラムでは,測定時間を大幅に短縮したものの,取得した1次元NMRスペクトルの分解能が低いため,ピークが重なってしまい,構造が十分に解析できない場合があった。
このピークの重なりを解消するためには,四極子核の高分解能化を可能にするMQMAS法の適用が必要だった。そこで今回,D-RINEPTとMQMASの各部分のパルス照射方法を見直し,D-RINEPTにMQMAS法を組み込んだ新型パルスプログラム(D-RINEPT-MQMAS)を開発し,四極子核の短時間・高分解能な観測,解析を実現した。
これにより固体表面上に存在する酸素原子のNMRスペクトルをより高分解能で,かつ1時間という短時間で測定することに成功した。研究所グループは今後,この成果を用いてさまざまな金属酸化物の表面構造を詳細に解析するとしている。