東京大学と香港理工大学は,機械学習技術を用いた緑内障視野予測のための新しい手法を開発し,世界最高レベルの予測精度を達成した(ニュースリリース)。
緑内障進行の診断および予測は,主に視野感度を用いて行なわれている。このデータは視野計を用いた視野検査で患者の視野の光感度を計測して得られる。
しかし,この検査には時間がかかること,また検査に測定誤差が入りやすいという問題があった。一方で,近年では光干渉断層計(OCT)を用いて短時間で網膜各層の層厚が計測できる検査が普及してきた。
そこで,研究グループは,①網膜層厚データから現時点の視野感度をいかに精度良く推定できるか。②緑内障進行予測のために,視野感度と網膜層厚を統合して「将来の」視野の欠損具合をいかに精度よく予測できるか。という課題に取り組んだ。
その結果「マルチタスク潜在空間統合学習」という新しい機械学習技術を開発することにより,①現時点の視野感度の精度の高い推定と②将来の視野感度の精度の高い予測という異なる課題を同時に解決することに成功した。
この技術は,視野感度と網膜層厚のデータの時空間的特徴を,低次元に圧縮して表現した「潜在空間」と呼ばれる世界の中で統合して学習することを特徴とする。また,学習の際に推定に用いた情報と予測に用いた情報を共有する(マルチタスク学習)ことで,両者の高精度化を実現した。
その結果,①の推定誤差と,②の予測誤差について,平方根平均2乗誤差が従来手法の世界最良の結果をそれぞれ6.33%と3.48%上回った。この成果はこの研究において,実用化に向けた着実な一歩を示すものだとする。
これまでは「現時点での視野感度の推定」と,「将来の視野感度の欠損度合いの予測」はそれぞれ独立して考えられてきたが,今回同時に扱うことで,共に世界最高の精度を達成した。
研究所グループは今後,網膜層厚と視野感度といった異種のデータを統合して視野欠損度合いを推定・将来予測するこの技術により,緑内障の進行を早期に予測し,治療計画を立てることが可能になるとともに,視野感度推定による検査コストの削減が期待できるとしている。