大阪府立大学と住友化学は,生体膜のリン脂質を模倣した双性イオン型の高分子ゲルを開発し,それを用いることにより,がん組織の透明化プロセスのスピードアップと生体組織の3次元蛍光イメージングに成功した(ニュースリリース)。
近年,生体組織をそのまま観察するための透明化技術が開発され,脳の神経ネットワークなどを3次元的に可視化できるようになってきた。
この技術をがん診断に適用すれば,微小がんの見落としの懸念を払拭することができるとともに,個別医療のための正確ながん診断が可能になると期待される。しかし,がん組織では細胞が密集し結合組織が発達しているため,既存の技術では組織透明化が難しいとされていた。
組織が不透明であるのは,組織内の成分の屈折率が異なること,光を散乱する脂質の会合体が存在しているため。組織透明化手法の1つであるCLARITY法では,組織中のたんぱく質をポリアクリルアミドゲルに固定化した状態で脂質を除去し,媒体を水からたんぱく質の屈折率と近い溶媒に置換することで透明化している。
研究グループでは,正と負のイオン性部位をあわせもつ双性イオン構造をもつ高分子ゲルが透明化プロセスの促進効果を示し,より速く,より透明ながん組織を得ることに成功した。また,生体膜のリン脂質を模倣した双性イオン型の高分子ゲルを用いて透明化した脳組織およびがん組織の3次元蛍光イメージングに成功した。
以上より,生体膜にみられるリン脂質を模倣したMPCヒドロゲルは生体組織透明化および3次元蛍光イメージングにおいて有用であることが示唆された。この組織透明化手法および3次元蛍光イメージング技術をがん組織の病理診断に利用すれば,生検サンプルを丸ごと診断することが可能となり,微小がんの見落としを防止することができるとする。
さらに,がん組織内のがん細胞の多様性や各種免疫細胞の分布なども多重染色により可視化することができ,研究グループは,個々の患者に適合した個別医療を実現するためのがん診断が可能になるとしている。