茨大ら,高効率・狭帯域青色有機EL用発光体を開発

茨城大学,九州大学,京都大学は,硫黄原子を導入した有機ホウ素化合物を活用することで,優れた発光効率と色純度を併せ持つ有機EL用の青色蛍光体の開発に成功した(ニュースリリース)。

有機ELの発光体として蛍光材料,リン光材料,熱活性化遅延蛍光(TADF)材料が利用されている。2016年,ホウ素と窒素の多重共鳴効果を利用することで高い発光効率と色純度を兼ね揃えたTADF分子の開発が報告されて以来,多重共鳴効果を利用したTADF分子が活発に研究されている。

しかし,多重共鳴効果を利用したTADF材料に関しては,逆項間交差が比較的遅いため,高輝度時の発光効率低下(ロールオフ)が実用化における課題となっており,これらを解決するための新しい分子デザインが求められている。

研究グループはこれまで,硫黄原子の重原子効果を利用することで,スピン反転を加速し逆項間交差を高速化することにより,EL特性が向上することを見出している。今回,9個の6員環が縮環したナノグラフェン骨格の適切な位置にホウ素,窒素,硫黄原子を導入した新規ヘテロナノグラフェン分子であるBSBS-N1を開発し,3種類のヘテロ元素融合による多重共鳴効果に基づくTADF特性の発現と発光スペクトルの狭帯域化と,硫黄原子の重原子効果による逆項間交差の高速化を達成した。

BSBS-N1はスカイブルー領域に極めて狭い発光バンド(半値全幅25nm)を示し,高い色純度を有することが分かった。またBSBS-N1は,これまでに報告されている多重共鳴型のTADF分子で最速の逆項間交差速度(kRISC=1.9×106s-1)を示した。これは,一般的な多重共鳴型TADF分子に比して10~1000倍も大きな値であり,BSBS-N1の2つの硫黄原子の重原子効果によって逆項間交差が促進されたと考えられるという。

BSBS-N1を用いた有機EL素子は最大外部量子効率が21.0%と高い値を示し,スカイブルー領域の多重共鳴型TADF分子BBCz-SBと比較して高電流密度・高輝度領域での発光効率低下(ロールオフ)が抑制され,高輝度領域でも優れた発光効率を持つことが明らかになった。BSBS-N1では,逆項間交差の高速化によって電界励起子の失活過程が抑制され,電力エネルギーを効率的にEL発光に変換できたと考えられるとする。

今回の成果は,今後の青色有機発光体の開発における重要な分子設計指針を与えるもの。研究グループは今後,さらなる逆項間交差の高速化を目指す。また,青色以外のさまざまな色域へも展開を進めるとしている。

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