理化学研究所(理研)は,ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて,硫化鉛(PbS)の「コロイド半導体量子ドット」の配位子密度を制御し,単純立方格子状に3次元自己集合した超結晶の作製に成功した(ニュースリリース)。
半導体ナノ結晶は,LED,太陽電池,トランジスタ,センサー,バイオイメージング,単一光子発生源,光触媒など,多岐にわたる応用が期待されている。
中でも量子ドットは,溶液中での分散状態または単一粒子でも利用されるが,それ以外のほとんどの場合は,量子ドットが集合した固体中における半導体の光・電子物性が重要になる。
近年,金属ハライドペロブスカイト量子ドットが集合した超結晶において,発光励起子が協奏的に相互作用した超蛍光が報告されており,量子ドットの集合状態における特異的な物性に注目が集まっている。
多くの半導体量子ドットは球状に近い構造を持っており,固体中では面心立方格子または体心立方格子で高い充填構造をとる。一方で,単純立方格子は充填率(結晶内で粒子が占めている体積分率)が低く,集合による粒子あたりのエネルギー利得が少ないことから,その超結晶を作製することは困難だった。
しかし,単純立方格子では,他の充填様式とは異なる光・電子物性が期待されており,集合状態と物性との関連を解明するために,単純立方格子状に3次元自己集合した超結晶の実現が求められていた。
有機溶媒中で合成したコロイド量子ドットには,有機溶媒への溶解性を保つために量子ドットのナノ結晶表面に長鎖アルキル基が配位している。そこで研究グループは,長鎖アルキル基配位子を量子ドット表面から選択的に一部除去することで,量子ドットの3次元集合状態様式を制御することを試みた。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法を用いて,PbSコロイド量子ドットにおいて連続的かつ選択的に配位子を一部除去した後,溶媒を徐々に蒸発させて量子ドット超結晶を作製した。その超結晶では,隣接するコロイド量子ドット同士が融合・接触することなく,単純立方格子状で3次元自己集合していることが明らかになった。
研究で示したGPC法によるコロイド量子ドットの配位子密度の制御は,PbS量子ドットのみならず,硫化カドミウム(CdS),セレン化カドミウム(CdSe)など,他の半導体量子ドットへの適用が期待できる。また,充填率がさらに低いダイヤモンド構造の形成は,今後の挑戦的な課題として挙げられるという。
研究グループは,半導体量子ドットの集合状態様式の任意精密制御により,次世代半導体デバイスや光触媒機能の性能が飛躍的に向上すると期待している。