慶應義塾大学と東京大学は,脳内の神経伝達物質ドーパミンを「見える化」するツールの開発と応用に成功した(ニュースリリース)。
ドーパミンは脳において神経細胞の間でやり取りされる神経伝達物質の一つで,運動・認知・報酬などさまざまな脳の機能を担っている。またドーパミンの伝達不調は,パーキンソン病をはじめとするさまざまな病気の原因となっている。そのため,脳の健康と病気の理解,そして薬の開発などにおいては,ドーパミンが脳でどのように働いているのかを「見える化」することが重要となる。
通常,医学・生命科学においては,「見える化」するために,蛍光色素や蛍光タンパク質など,分子で標識する「蛍光標識」が用いられる。しかし,ドーパミンは非常に小さい分子で,蛍光色素の半分以下,蛍光タンパク質の100分の1以下のサイズしかない。そのため,これらで標識すると性質が大きく変わってしまい,本来の姿を捉えることができず,ドーパミンの脳細胞,組織の中での挙動は明らかになっていなかった。
このような小さな分子を「見える化」するものとして,近年,アルキン標識という方法が開発された。アルキンは,炭素の三重結合からなる分子量25以下の非常に小さな分子であり,これを付けてもドーパミンの分子の大きさはほとんど変わらず,その生理活性も維持できると期待される。
さらに,このアルキン分子は,クリック反応やラマン散乱などの手法により,簡便に感度良く安全に検出できる特性がある。今回の研究では,このアルキン分子をドーパミンに付けて,ドーパミンを標識した「アルキン標識ドーパミン」を開発した。これを培養細胞,動物組織で試すことにより,ドーパミンの挙動を捉えることに成功した。
研究グループは,この研究成果により,これまで明らかにされていなかったドーパミンの脳細胞・組織内での挙動を捉えることが可能となり,脳の健康と病気の理解を深める研究や薬の開発に新たな道を拓くことが期待されるとしている。