京都産業大学らの研究グループは,ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡(Very Large Telescope; VLT)でボリソフ彗星を観測し,太陽系外からやってきた天体から吹き出す物質の特徴を明らかにした(ニュースリリース)。
人類史上初めて確認された太陽系外から来訪した天体(恒星間天体)は,2017年に発見された。その天体からガスやダストが噴出する様子はまったく観測されず,間接的に物質放出の可能性が示唆されたのみだった。
2019年には,2例目の恒星間天体となるボリソフ彗星が発見された。この天体は初めて物質放出が確認された恒星間天体であり,それによって天体内部物質の詳細な分析が可能となり,遙か彼方の星・惑星系形成の姿を垣間見ることが可能となった。
ボリソフ彗星は明るい天体ではなく,研究グループは,2019年11月から12月にかけて何度も世界最大となる口径8.2mの望遠鏡,VLTで観測を行ない,十分なデータを得た。UVESとよばれる天体分光器を用いて観測した結果,12月末のボリソフ彗星は1秒間に約7キログラムの水をガスとして放出していたことが分かった。
太陽系の彗星を観測する場合は,通常,彗星が十分に明るくなって,1秒間に数トンもの水が気体として放出されているような状況に対し,今回の成果は,ボリソフ彗星がいかに暗く,観測が困難であったかを物語っている。
重要な観測結果として,ボリソフ彗星に含まれるニッケルと鉄の成分比を世界で初めて得た。この成分比を太陽系の彗星と比べたところ,非常によく似ており,ボリソフ彗星がやってきた星・惑星系の中心には,太陽と似た成分の星が輝いていた可能性が高いと考えられる。
また,同彗星に含まれるアンモニア分子の原子核スピン異性対比(同じアンモニアでも量子力学的な性質が異なる2種類の原子核スピン異性体が存在する)の測定にも世界で初めて成功した。
その他,様々なガス成分の検出に成功しており,酸素原子禁制線の観測からは氷中に揮発性の高い一酸化炭素が多く存在している可能性も示唆されたが,こうした特徴は太陽系の彗星と大きくは異なっておらず,総合的に判断して,太陽系彗星と同様な環境で形成された氷天体であると結論付けた。
研究グループは,今後,他の恒星間彗星を観測し,太陽系以外の星がどのような環境で作られるのかを明らかにしたいとしている。