理研ら,単一分子の精密ナノ分光法を確立

著者: sugi

理化学研究所(理研)と大阪府立大学は,ナノメートルサイズの領域に局在する光を用いることで,原子分解能を持つ顕微鏡で観察しているナノ物質の性質を直接測る精密ナノ分光手法を確立した(ニュースリリース)。

これまで,精密な分光計測には主にレーザー光が用いられてきたが,空間分解能が数百nmと不十分だった。一方で,原子分解能で物質を観察できる顕微鏡では,精密な分光法が開発されておらず,顕微鏡で見ているナノ物質の性質を正確に測ることは難しかった。

今回,研究グループは,原子分解能を持つ走査トンネル顕微鏡(STM)と狭線幅の波長可変レーザーを組み合わせ,マイクロ電子ボルトという高いエネルギー分解能と,nmという高い空間分解能を併せ持つ精密ナノ分光法を開発した。

独自に開発した光STM装置を用いて,単一分子のフォトルミネッセンス(PL)分光測定を行なった。先端が鋭く尖った金でできた STM 探針と金属基板間のnmサイズの隙間にレーザー光を照射すると,局在する近接場光を誘起することができる。

ここで生じる近接場光のエネルギー(振動数)は,外部から照射するレーザー光のエネルギー(振動数)で決まるため,レーザー光のエネルギーを変えることで外部から精密に制御できる。

近接場光を光STMで観察している単一のフタロシアニン(H2Pc)の分子に近づけ,照射レーザー光のエネルギーを変化させながら分子発光の強度を測定することによって,単一分子の個々の励起状態のエネルギー値やピークの幅をマイクロeVレベルの高いエネルギー分解能で測ることができた。

さらにこの手法を用いて,化学種の同定,ナノ空間で生じるシュタルク効果の発見とその機構解明にも成功。今回の実験のような金属ナノギャップにおいては静電場が空間的に非一様になり,反転対称性を持つ分子であっても線形シュタルク効果を生じることが明らかになった。

この結果は,分子間に働く双極子相互作用の強さや共鳴エネルギー移動の速度などを制御できる可能性を示すもの。また,有機発光素子などエネルギー変換デバイスの内部でもこのような従来想定されていなかった現象が生じており,その特性に影響を与えている可能性もあるという。

研究グループは,これらを理解したうえで制御できれば,有機デバイスの特性制御や高機能化につながるかもしれないとしている。

キーワード:

関連記事

  • 北大ら,分光画像を空間の繋がりから読み解く新手法

    北海道大学,大阪大学,京都府立医科大学は,ラマン分光計測に対して,化学的な周辺環境を表す新しい尺度を定義し,それに基づいた新しい解析手法の開発に成功した(ニュースリリース)。 生体組織内の分子の種類や分布を調べるためにラ […]

    2025.10.30
  • オーシャンフォトニクス,分光放射輝度計を発売

    オーシャンフォトニクスは,分光放射輝度(W/m2/sr/nm)の校正がされた,感度補正済みの分光測定システムである分光放射輝度計「ILT970-VNIR/ILT570-VISシリーズ」を発売すると発表した(製品ページ)。 […]

    2025.06.26
  • 分子研ら,ピコキャビティ内の水素の分光計測に成功

    分子科学研究所,総合研究大学院大学,独Fritz Haber Institute of the Max Planck Society,独Max Planck Institute for Structure and Dyn […]

    2025.05.23
  • 千葉大,駆動する有機ELの電位分布を調べる手法開発

    千葉大学の研究グループは,有機EL(OLED)をはじめとする有機デバイスに電圧をかけて駆動した状態で,内部の電位分布の状態を調べることのできる全く新しい計測手法を開発した(ニュースリリース)。 有機ELのさらなる高機能化 […]

    2025.03.25
  • 理研ら,テラヘルツ光で単一分子発光を誘起

    理研ら,テラヘルツ光で単一分子発光を誘起

    理化学研究所(理研),横浜国立大学,浜松ホトニクスは,ピコ秒の時間スケールを有する光パルスとナノメートルスケールの物質を可視化する顕微鏡を組み合わせた,現時点で極限ともいえる時空間分解能を有する単一分子分光手法を確立した […]

    2025.03.10
  • 島津製作所,3種の紫外可視分光光度計を発売

    島津製作所は,紫外可視分光光度計(UV)の発売を国内外で開始した。製品名は「UV-1900i Plus」「UV-2600i Plus」「UV-2700i Plus」の3種類(ニュースリリース)。 価格は「UV-1900i […]

    2025.02.14
  • 東北大,植物を見守る小型反射分光測定センサを開発

    東北大学の研究グループは,植物の健康状態を遠隔からスマートフォンなどの端末で確認できる新しい小型センサを考案・開発した(ニュースリリース)。 近年の高温,多雨,乾燥といった急激で極端な気象変化は,植物に大きなストレスを与 […]

    2024.10.10
  • ニレコ,赤外分光アナライザ向けオートサンプラ発売

    ニレコは,液体計測専用の近赤外分光アナライザ「A8860」用のオプションとして最大6検体の連続測定が可能となる6チャンネルオートサンプラの提供を開始すると発表した(ニュースリリース)。 同社は,2022年にはラボユースに […]

    2024.03.29
  • オプトキャリア