名古屋大学と米イリノイ大学は,次世代有機エレクトロニクス材料として期待される「ナノグラフェン」の多様性指向型合成法の開発に成功した(ニュースリリース)。
ナノグラフェンの種類は,グラフェンから切り出すベンゼン環の数に従って急激に増加する。例えば,ベンゼン環10個からなる比較的小さなナノグラフェンに限っても16000種類を超えるナノグラフェンが存在する。
しかし,100種類のナノグラフェンからなるライブラリを構築するためには100種類のカップリング戦略を考案する必要がある。そのため,ナノグラフェンの構造の多様性を考慮すると,従来の手法でナノグラフェンライブラリを構築することは極めて困難だった。
研究グループは,市販の多環芳香族炭化水素を鋳型としてナノグラフェンを合成するAPEX反応の研究を行なってきた。多環芳香族炭化水素は,その化学構造に応じてK領域やbay領域,M領域と呼ばれる末端構造を有する。これらの領域をそれぞれ伸長させるAPEX反応を開発することができれば,ひとつの鋳型分子から3種類のナノグラフェンを合成することができる。
さらに,得られたナノグラフェンを新たな鋳型として繰り返し成長させることで,わずか1種類の多環芳香族炭化水素と3種類のAPEX反応から非常に多くの種類のナノグラフェンを合成することが可能になる。
今回,研究グループは、ナノグラフェンの種とみなせる市販の化合物を鋳型として用い,これを成長させるように多様なナノグラフェンを合成するテンプレート成長法の開発に成功した。開発したAPEX反応は非常に効率的であり,わずか2段階で市販の鋳型分子からナノグラフェンの合成が可能だという。
さらに,この反応は高選択的であり,鋳型分子がK領域やbay領域を有している場合でもM領域のみを狙って伸長させることができる。すなわち,この反応はこれまでに開発されていたK領域やbay領域でのAPEX反応と組み合わせて用いることができる。
したがって,1つの鋳型分子から3種類の成長反応を繰り返すことで,多種多様なナノグラフェンを合成することが可能になった。実際に,市販の多環芳香族化合物に対してわずか1〜3回のAPEX反応を行なうことで,13種類ものナノグラフェンの合成に成功した。
合成されたナノグラフェンの多くは新規化合物(これまでに合成不可能であった物質)であり,研究グループは,この方法がナノグラフェンライブラリの構築を可能にするものであり,合成されるナノグラフェンには,ユニークな電子物性や光学特性の発現が期待されるとしている。