東京大学と英オックスフォード大学は,高密度のコロイド分散系において,球形コロイド粒子の回転運動の観察に成功した(ニュースリリース)。
コロイド分散系は,粒子の大きさが原子などに比べはるかに大きいため,構造やダイナミクスの素過程に直接アクセス可能であるという大きな特徴をもつ。そのため一粒子レベル分解能を持つ共焦点顕微鏡による実時間3次元観察は,結晶化,ゲル化,ガラス化といった基本的な非平衡相転移現象の解明に大きく貢献してきた。
これまでこのような研究は,主に蛍光標識された球形コロイド粒子の重心の並進運動を捕捉することにより行なわれてきた。しかし,球形のコロイドの場合,その球対称性のため,このような方法では回転運動を観察することは難しく,コロイドの回転ダイナミクスに関する理解は大きく遅れていた。
そこで研究グループは,蛍光標識された球形のコロイドの中に,別の色で蛍光標識された球形ドットを偏芯させた状態で作成した。この操作を全粒子に対し均一に行なう方法を開発するとともに,コロイド粒子全体の重心と球形ドットの重心を結ぶベクトルの運動として,重心まわりの回転運動を検知する解析アルゴリズムを開発し,高密度のコロイド分散系の多数の粒子の回転運動を一粒子レベルで正確に捕捉することにはじめて成功した。
研究グループは,この合成したコロイド粒子と新たな回転解析法により,荷電コロイドが自発的に形成した結晶において,結晶格子上に存在するコロイド粒子の回転運動が隣接した格子点のコロイドの回転運動と流体力学的な相互作用を介して動的に結合していることを明らかにした。
また,密度の高い剛体球の結晶では,局所的な結晶的な秩序が高い場所にある粒子ほど,回転しやすいことや,隣の粒子との接触によりあまり動けなくなった粒子が,接触摩擦によりスティック・スリップ的な回転運動をすることを発見した。これらの発見はこれまでほとんど解明されていなかった,高密度微粒子中の球状粒子の局所的な回転運動の理解に新たな光を当てるものだという
研究グループは,今回達成した多粒子コロイド系における一粒子レベルでの粒子回転の実時間捕捉は,コロイドや粒状物質における様々な複雑なレオロジー現象の解明に寄与するものだとしている。