理研,新しい触媒活性理論を支持するデータを取得

理化学研究所(理研)は,新しい触媒活性理論を支持する実験データの取得に成功した(ニュースリリース)。

従来の触媒理論は,反応がゆっくりと進行する平衡状態近傍を前提としていた。しかし,実社会では反応が活発に進行する非平衡状態で触媒が使われるため,正しく活性を予測できなかった。この課題を解消するため,研究グループは従来理論を拡張し,2019年に非平衡状態における触媒活性に関する新たな理論を発表した。

新理論では,「非平衡状態で高い活性を示す触媒の吸着エネルギーがゼロとは限らない」と予測される。その仮説を非平衡状態の触媒活性により実際に評価した。ここで用いた白金は水素製造に対する活性が極めて高く,もしその吸着エネルギーが拡張理論の予測と合致すれば,新理論の妥当性および有用性が支持される。

触媒活性を支配する重要な指標の一つである吸着エネルギーは,実験から直接評価することは難しい。そこで研究グループは,白金を触媒とした水の電気分解を用い,電圧を変えることで非平衡状態を作り出し,白金の反応機構の数理解析により,電圧に対する触媒活性の変化を表現する方程式を導出した。

この理論方程式から導かれる活性は,吸着エネルギーにも依存するため,実験結果をうまく説明する吸着エネルギーが見つかれば,それが白金の吸着エネルギーと考えられる。

この逆算をする際,遺伝的アルゴリズムという機械学習手法を活用した。遺伝的アルゴリズムは,中程度に良い解が見つかっても,さらに良い解を探し続けることできる。これにより,白金の真の吸着エネルギーを実験データから算出できる。

その結果,得られた吸着エネルギーは,0.094eV±0.002eVだった。白金は高い活性を持つが吸着エネルギーはゼロではないため,この結果は,従来理論と実験が乖離していることを意味する。

この乖離は,従来理論が平衡状態近傍でしか成立しないことに由来すると考えられるという。理論方程式の吸着エネルギーを0.094eVに設定すると,この実験結果をよく説明できた。従来理論の予測通り,いずれも平衡状態近傍ではあまり高い活性を示さないが,わずかでも電圧を与えると,触媒活性が急速に増大することが分かった。

これが,非平衡状態になると白金触媒の活性が従来理論から逸脱する理由だという。吸着エネルギーがゼロでないにもかかわらず,非平衡状態における活性が高い材料があるということは,新理論の予測が妥当であるとする。

研究グループはこの成果が,高活性な触媒材料の効率的な開発,そして近年研究が加速している触媒インフォマティクスの精度向上に貢献するものだしている。

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