岡山大学の研究グループは,分子中にベンゼン環がジグザグにつながる「フェナセン」と直線的につながる「アセン」の構造を融合させたハイブリッド型分子であるジベンゾ[n]フェナセン(n=5–7)を,光化学反応を利用して簡単に合成した(ニュースリリース)。
有機半導体材料を活性層とするトランジスタ(有機電界効果トランジスタ)は,有機物特有の性質を利用した「柔軟性」「低コスト」「容易な大面積化」「耐衝撃性」「軽量性」といった特徴を持ち合わせており,次世代エレクトロニクスを支えるデバイスとして近年盛んに研究が進んでいる。
有機電界効果トランジスタにより,フレキシブルデバイスあるいはウェアラブルデバイスが生み出されている。しかし,有機電界効果トランジスタはトランジスタの性能指標の一つである「電界効果移動度」が,従来の無機材料を用いたトランジスタに比べて低く,この問題を解決するためには,高性能な有機半導体材料を開発することが重要な課題となっている。
研究グループは,今回,光化学反応を使ってアセンとフェナセンのハイブリッド構造をもつジベンゾ[n]フェナセン(n=5–7:nはフェナセン骨格のベンゼン環の数)を簡単に合成する方法を確立した。光は触媒や反応後に試薬の残渣などを残さない究極にクリーンな反応剤といえるという。
この研究では,ジアリールエテンと称されるエチレンの両端に芳香族構造を導入した出発物質に,ヨウ素と空気の存在下でブラックライトの紫外線を当てることで目的の化合物を合成することができた。この反応はMallory光反応と呼ばれる。
合成した3種類のジベンゾ[n]フェナセンの単結晶を作製し,その単結晶を使った電界効果トランジスタの性能を調べたろこと,ジベンゾ[6]フェナセンを活性層に用いたトランジスタの電界効果移動度の平均値は 2.0(7)cm2V-1s-1だった。この値はジベンゾ[5]フェナセンとジベンゾ[7]フェナセンを用いたトランジスタの移動度よりも大きく,分子の形(対称性)の違いが移動度に影響を与える可能性を示した。
有機半導体材料を用いた高性能デバイスを目指すには,高性能な有機半導体材料を開発することが重要となる。今回の研究成果は,有機半導体材料の開発過程において分子の形(対称性)が一つの鍵であることを実験的に示した。研究グループは,このような指針が得られたことで,今後,高機能・高性能な新規有機半導体材料の設計と開発を推し進めることができるとしている。