広島大学,クロアチアRuđer Bosǩović Institute,京都大学は,環状パラフェニレン骨格に導入したジラジカルの基底状態がパラフェニレン骨格のベンゼン環の数で制御されることを見出した(ニュースリリース)。
キノイド特性を有する開殻性分子は,HOMO-LUMOギャップが小さく,柔軟な電子状態に由来する高い酸化還元特性を有している。また,可視から近赤外領域での光応答性にも富んでいることから,機能性材料としての応用も期待されている。
キノイド構造を構築する手法として,ベンゼン環のパラ位に発生したジラジカル間の結合性相互作用を利用したものが広く知られている。しかし,ベンゼン環3枚以上(n≥3)のパラフェニレン骨格を持つジラジカルのキノイド特性の報告例はなく,π拡張がどこまで可能であるのか,また,そのπ拡張したキノイド構造が示す物性には大きな興味が持たれている。
研究では,アゾ分子の光脱窒素反応で生じるジラジカルを,湾曲したベンゼン環で架橋することにより,基底一重項状態に変化することを初めて実証した。この要因は,湾曲効果を導入することにより,キノイド構造の寄与が生じることに起因しているという。
この成果は,これまで報告例の無いベンゼン環4枚でのキノイド特性をはじめとした,未到のπ拡張分子でのキノイド物性を発現させる大きな足掛りになるもの。これまで研究グループが行なってきたシクロペンタン1,3-ジラジカルの2位の置換基や元素効果によるスピン制御の成果を基礎とし,分子の歪みに着目した新規アプローチだとする。
これにより,これまで不可能とされてきた高次キノイド構造の構築が可能となり,より優れた電子伝導性をもつ電子材料の開発が可能となる。研究グループは今後,ベンゼン環4枚でのキノイド特性を明らかにする。また,平面芳香族安定化を導入することにより,よりπ拡張したキノイド構造を構築することが出来るため,大環状アゾ化合物の合成に着手し,π拡張したキノイド特性を調査するとしている。