理化学研究所(理研)と東北大学は,1枚の回折強度パターンから広がった試料の実空間像を再構成できるコヒーレント回折イメージング法(CDI)(シングルフレームCDI)を提案・実証した(ニュースリリース)。
コヒーレント回折イメージング法(CDI)は,レンズの開口数や作製精度に制限されずに観察対象のナノ構造を可視化できる。CCDIには,平面波照明と走査型(通称タイコグラフィ)の二つがある。
平面波照明CDIは照明領域より小さな孤立物体だけしか観察できないのに対し,走査型CDIは照明領域よりも広がった物体を観察できるが,試料を走査しながら複数回ごとの回折強度パターンを収集する必要がある。
今回,研究グループは,三角形など非点対称でエッジが鋭い開口を用いることで,シングルフレームCDIの像質が向上することを発見した。
これまで,ビームより広がった物体をワンショットで観察するCDIでは,照明領域と非照明領域の境界がはっきりした照明(トップハット型照明)が必要とされ,像再構成計算では,非照明領域の情報を再構成計算の中で拘束条件として使う必要があったが,この手法では,このような拘束条件を使わなくても,試料像を再構成できる。
大型放射光施設「SPring-8」において,三角形開口を導入した実証実験を行なったところ,1枚当たり10秒露光のシングルフレームCDIによる再構成像は,同じ露光時間のタイコグラフィと比較して照明領域については同等の像質であり,空間分解能は17nmだった。さらに,時間分解能も良いことも分かった。
この手法は今後,動的試料のイメージングへの展開が期待されるという。例えば,複雑な時空間階層構造を持つソフトマテリアルの運動の解析に使用できるという。
放射光施設では,X線光子相関分光によりソフトマテリアルのダイナミクスに関する研究が行なわれているが,この手法はX線光子相関分光法の時空間スケールの一部をカバーするため,二つの手法を連携することで,ソフトマテリアルの運動のより詳しい解析が期待できるとする。
現状,この手法は入射X線強度ならびにX線画像検出器の性能によって,その時空間分解能が制限されている。今後,次世代放射光施設の登場や次世代の画像検出器の開発により,時空間分解能がさらに向上すると考えられるとしている。