理研ら,超新星エンジンをX線観測で解明

理化学研究所(理研),京都大学,東京大学らは,X線観測から超新星残骸「カシオペア座A」は,「ニュートリノ加熱」が引き金となって爆発した重力崩壊型超新星の名残であるという観測的証拠を初めて掴んだ(ニュースリリース)。

太陽質量の約10倍以上の大質量星は,その一生の最期に「重力崩壊型超新星爆発」と呼ばれる大爆発を起こす。この爆発メカニズムの解明は,宇宙物理学上の超難問といわれ,大規模な理論計算を用いても再現が困難だった。

現在では,星が重力崩壊を起こすときに大量に放出されるニュートリノの一部のエネルギーが物質を加熱し,超新星爆発を引き起こすというシナリオが最も有力となっている。このメカニズムに関する最も重要な手がかりは,カミオカンデによる超新星1987Aからのニュートリノの直接観測で得られているが,このシナリオの本質であるニュートリノ加熱を裏付ける観測的証拠はなかった。

このシナリオによる超新星爆発はコンピューターシミュレーションにより再現されており,ニュートリノ加熱時に生み出される対流やそれに伴う上昇流などの「非対称効果」が衝撃波を押し上げ,爆発することが分かってきている。

このメカニズムは,「ニュートリノ駆動型対流エンジン(超新星エンジン)」と呼ばれている。一方で,このシナリオでは,ニュートリノ観測データから物質と相互作用したニュートリノからの情報を引き出すことはまだできておらず,この超新星エンジンの核心に迫ることができていなかった。

研究グループは,ニュートリノ駆動型対流エンジンを特徴づける元素であるチタン,クロム,鉄に着目し,重力崩壊型超新星の残骸「カシオペア座A」の非対称構造からこれらの元素の同時検出を目指した。

カシオペア座Aは非対称的な爆発を経験したと考えられている。特に,一部の構造の主成分が鉄であることから,この構造は爆発中心部の非対称効果によって外側へ飛び出た可能性が高いという。そこで,米チャンドラ衛星のカシオペア座Aを観測したデータを総動員してこの構造内の元素を調べた。

その結果,チタン,クロム,鉄などの超新星エンジン周辺で合成される金属元素が,この構造内に同時に存在することを発見した。また,この構造内の元素組成は,超新星エンジン周辺で生み出される上昇流による高エントロピー,かつ陽子過剰な環境で合成されるものとよく一致することが分かった。

研究グループはこの結果から,超新星爆発のニュートリノ加熱の存在が観測的に立証されたとしている。

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