理化学研究所(理研),中国科学院大学,独グライフスヴァルト大学は,スピン流(電子スピンの流れ)を電流の渦に変換する新しい現象を数値シミュレーションにより発見した(ニュースリリース)。
第5期科学技術基本計画における未来社会「Society 5.0」の量子技術として,電子スピン(スピン)と電流の相互変換を省エネや情報制御に用いる「スピントロニクス」が注目されている。
ラシュバ型スピン軌道相互作用(2次元電子系や3次元物質表面・界面など,空間反転対称性が破れた系で著しいスピン軌道相互作用のこと)を持つ金属や半導体に磁気の素であるスピン流を注入することで電流を発生させる現象は,磁気と電気の相互変換のための重要な基礎技術となる。
今回,研究グループは,同じ物質において,注入するスピンのスピン分極方向をこれまでと異なる方向に選ぶことで,電流の渦が誘起されることを明らかにした。
電流の渦が発生すると磁場が発生する。したがって,スピン流を生成するために初めに加えた磁場に周期性を持たせることで,2次元電子系内に発生する電流の渦にも周期性が現れ,結果として電磁場が発生することが予想されるという。この電磁場は実験的に観測可能であるため,今後の実験による検証が待たれる。
今回のシミュレーションにより,注入するスピン流のスピン分極方向を2次元電子系に垂直に選んだときに,電流の渦が発生することが分かった。これまでのスピントロニクス研究では,スピン分極方向はあまり重要視されてこなかったことから,今回のシミュレーション結果は新たな着眼点を与えるものであり,今後のさらなる研究や応用に期待がもたれるとしている。