物質・材料研究機構(NIMS),北海道大学,高輝度光科学研究センター(JASRI),東北大学は共同で,銅酸化物高温超伝導体の電子は二次元的な運動をしているという35年間の定説とは異なり,一次元的な運動が重ね合わさった状態であることを見出した(ニュースリリース)。
エネルギー問題解決に向けて,電気抵抗がゼロになる超伝導をいかに高温で発現させるか,世界中で研究が進められている。なかでも銅酸化物超伝導体は,高い転移温度と,銅と酸素からなるCuO2面が層状に積層した特徴的な構造を持つため,その発現機構が注目されている。
機構解明に向けて,物質中の電子の運動を反映するフェルミ面の観測が重要となる。これまで角度分解光電子分光(ARPES)によるフェルミ面の観測で,電子はxy平面で二次元的に運動すると認識されていた。
ただし,ARPESではフェルミ面の一部のみしか正確には観測できておらず全体の形状は明らかになっていなかった。一方,近年,理論や他の実験によって電子が一次元的に運動している可能性が示されており,高温超伝導体の電子状態解明に向けて,フェルミ面が本当に二次元的なのか詳細な観測が求められていた。
今回,研究グループは,世界的にも大型放射光施設SPring-8でしか実施できない,高強度の高エネルギーX線を用いたコンプトン散乱によって,銅酸化物高温超伝導体La2-xSrxCuO4におけるフェルミ面の詳細な観測を行なった。
その結果,35年間信じられてきた従来の二次元的なフェルミ面の形状ではなく,一次元的な電子の運動が重なり合った状態であることを実験的に示すことに初めて成功した。
La2-xSrxCuO4は,CuO2面が層状に積層した構造をしているが,観測データは,各CuO2面で電子がxまたはy方向への指向性を持って運動しており,層方向に沿ってxとyの方向が交互に変化していることを示した。
高温超伝導を引き起こす電子の運動状態を明らかにした今回の成果は,銅酸化物がなぜ高温で超伝導となるのかの解明につながることが期待されるという。
研究グループは今後,ARPESなどの他の手法と連携して一次元的な電子の運動の重ね合わせがどのようにして高温超伝導に結びつくのかを突き止め,高温超伝導材料を用いた次世代量子計算機向け量子マテリアルの開発の基盤研究を進める。
さらにコンプトン散乱によって,水素液化の低コスト化を実現する鍵として期待されている磁気冷凍材料の電子状態を観察し,水素社会実現に向けて電子レベルでの知見を提供することを目指すとしている。