岐阜大学は,第一原理計算を用いて,固体とプラズマの中間相であるWarm Dense Matter状態にある金(Au)と銅(Cu)の合金の安定性を明らかにした(ニュースリリース)。
光を物質に照射するとき,照射するレーザー光の強度を極限まで大きくすると,電子温度が105K(=100000K)程度まで瞬時に増大する。一方で,物質の構成要素であるイオンはは室温程度(=300K)を維持し,プラズマのように空間中に拡散しない。
このように,「電子は超高温状態(warm)にあるけれど,イオンは固体(つまり密度の高いdense)状態を維持している」という特殊な物質の状態を「Warm Dense Matter」状態と呼ぶ。Warm Dense Matter 状態にある金属は,ピコ秒程度で電子集団からイオン集団にエネルギーが流れ,すぐに融解し液体となる。このため,その構造物性については十分に理解されていない。
詳細な理論計算により,室温下での結晶構造とWarm Dense Matter状態の安定性との間に何らかの関係が存在することが示唆されていた。そこで研究では,金と銅が混合してできた「AuCu合金」に注目。この合金は,その混合比に依存して様々な結晶構造を持つ。固体状態では,AuとCuが1対1で混合したAuCuがとるL10構造は体心立方構造と類似するため,AuCuのWarm Dense Matter状態は不安定になることが予想された。
第一原理計算の手法を用いて,Warm Dense Matter 状態のAuCu合金の安定性を詳細に調べた結果,Warm Dense Matter状態では,
・CuAu3,AuCu3(L12構造)は硬くなる。
・AuCu(L10構造)は不安定である。
ことが明らかになった。
L10構造の安定性に関する解析的な理論を構築し,AuCuの安定性の起源を考察した結果,
・固体状態では,Au-Au,Cu-Cu,Au-Cu間に作用する「長距離力」のおかげでL10構造が安定化する。
・Warm Dense Matter状態では,原子間に作用する「長距離力」が弱くなる。
ことが明らかになり,ゆえにL10構造のWarm Dense Matter状態は不安定となることがわかった。また,Warm Dense Matter状態において金属が硬くなる原因は,原子間に作用する「短距離力」の増大として理解できることもわかった。
研究グループは今後,L10構造を持つ様々な合金に対してこの理論を適用し,合金の安定性を詳細に理解することが課題だとしている。