東工大ら,負熱膨張に繋がる鉄酸鉛の電荷分布解明

東京工業大学,九州大学,名古屋工業大学は,ペロブスカイト型酸化物鉄酸鉛(PbFeO3)がPb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3という特異な電荷分布を持つことを明らかにした(ニュースリリース)。

ペロブスカイト型酸化物は,強誘電性,圧電性,超伝導性,巨大磁気抵抗効果,イオン伝導など,多彩な機能を持つため,盛んに研究されている。こうした機能は,3d遷移金属が担っており,その価数やスピン状態によって変化する。

一方鉛やビスマスは典型元素でありながらPb2+とPb4+(Bi3+とBi5+)という電荷の自由度を持っており,3d遷移金属と組み合わせること,周期表の順番にしたがって系統的な価数の変化を示す。

研究グループは,これまでにPbCrO3がPb2+0.5Pb4+0.5Cr3+O3の,PbCoO3がPb2+0.25Pb4+0.75Co2+0.5Co3+0.5O3の特徴的な電荷分布を持つこと,Bi3+0.5Bi5+0.5Ni2+O3の電荷分布を持つBiNiO3を改質すると巨大な負熱膨張が起こることなどを明らかにしてきた。しかしながら,PbFeO3の電荷分布は解明されていなかった。

PbFeO3の結晶構造を詳細に調べた結果,ペロブスカイト型構造(一般式ABO3)のAサイトに,Pb2+とPb4+が1:1で秩序配列した結晶構造を持っていることが明らかになった。Pb2+とPb4+が1:1で含まれることは,SPring-8のビームラインBL09XUでの硬X線光電子分光実験によって,鉄イオンがFe3+であることはメスバウアー分光実験でも確認した。

Pb2+とPb4+の配列は層状と岩塩型の中間で,これまでに見つかっていなかった特殊な形だった。この特殊なPb2+とPb4+の秩序配列のために,周囲の環境の異なる2種類の鉄イオンが存在し,そのことが418Kで磁化の方向が変化するスピン再配列につながることを明らかにした。

PbFeO3がPb2+0.5Pb4+0.5Fe3+O3という特異な電荷分布を持つことが明らかになった。今後,BiNiO3同様,PbFeO3に化学置換を施すことで,温度の上昇でPb2+Fe4+O3への変化が起きるようにすることができれば,熱膨張によるずれを抑制できる負熱膨張の発現も期待されるという。

また,これまで2つの磁性イオンの存在が必要だと考えられていたスピン再配列が,鉛イオンの電荷秩序のよって起こることが明らかになったこと,そして室温をはるかに超える高い転移温度を持つことから,外場で磁化の方向を制御する新しいスピントロニクスデバイスへの応用も期待されるとしている。

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