大阪大学とベルギー IMECは,大阪大学発の技術であるテラヘルツ波放射顕微鏡(LTEM)を用いることで,3次元回路のシリコン貫通電極(TSVs)の非破壊・非接触評価に初めて成功した(ニュースリリース)。
半導体集積回路の3次元化の中で,上下の集積回路を接続するTSVはシリコンウエハーを貫通する金属電極で,電極とシリコンの絶縁特性や導電特性の不良などは,集積回路動作への影響が大きい。しかし,TSVを非破壊・非接触で分析・評価を可能にする技術はなかった。
今回,研究グループは,フェムト秒レーザーをTSV近くに照射することで発生するテラヘルツ波とその伝搬の観測から,TSVを非破壊・非接触で分析・評価できることを初めて示した。
TSVは縦型柱状の構造で,シリコン,絶縁層,金属で構成されている。シリコンは表面近くで,電界が自然に存在しており,光で励起された電子は内側に,正孔(正の電荷)は絶縁層に向かって走る。この時発生する電流でテラヘルツ波が励起され,空間中に放射される。
また一部のテラヘルツ波は,シリコン内部へと伝搬するが,シリコンウエハーの背面で反射され,帰ってきたテラヘルツ波も空間に放射される。ここで,内部に侵入した方のテラヘルツ波は時間が遅れて放射されるので,その時間遅れを観測するとテラヘルツ波の伝搬の様子が観測される。これにより,金属・絶縁層・シリコン半導体の柱状構造を3次元的に分析・評価できる可能性を示した。
これは,テラヘルツ波放射顕微鏡が TSV の非破壊・非接触での分析検査に有効であることを実証したもの。今後は,高分解能化や,非常にパルス幅の短いフェムト秒レーザーを用いることで,局所に,かつ高速に伝搬するテラヘルツ波の観測が可能となり,一つ一つのTSV 内部の分析が可能となるという。
今回の成果は,大阪大学が長年,独自に開発してきたテラヘルツ放射顕微鏡を応用したもの。今後,世界的な半導体研究開発の場面で利用され,その技術が,高性能3次元半導体集積回路の開発や作製に大きく貢献し,結果的に電力や水資源の消費削減につながることが期待されるとしている。