東工大ら,円偏光散乱を用いてがんを診断

東京工業大学,パレスチナ工科大学,自治医科大学は,円偏光散乱を用いた新たながん診断技術を実験的に実証し,早期がんの深達度の検出が可能であることを明らかにした(ニュースリリース)。

円偏光を生体組織に照射し,その散乱光の偏光状態を調べることにより,組織内の主な散乱体である細胞核の大きさや密度,分布などの情報を得ることができる。

この技術は前がん病変などの初期の異形成の検知に期待されており,研究では,ヒトのすい臓がんの肝転移検体に対し近赤外光の円偏光を照射し,その散乱光の偏光状態を調べることにより,円偏光のがん検知の可能性を検討した。

研究グループは,生体試料に検体のがん転移部と健常部をまたがる直線状に対しラインスキャンを行なった。円偏光を生体試料に照射し,検出角φの方向に設置した偏光計によって散乱光の偏光度を検出した。その結果,検出角によらず健常組織とがん組織に対する散乱光の偏光度には明確な差異が得られ,この技術によりがんの識別が可能であることを示した。各部位からの散乱光の円偏光度(DOCP値)の差はおよそ0.2程度だった。

一方で,生体内での円偏光の散乱機構をモンテカルロ法によりシミュレーションし,この技術の最適化を実施した。細胞核を模した散乱体が水中に分散している水分散液を疑似生体模型とし,健常組織では細胞核径を6µm,がん組織中ではがん化による細胞核の肥大化を反映して11 µmとした。この生体模型に対してほぼ垂直に円偏光を照射した場合の散乱光の円偏光度を計算した。

その結果,健常組織とがん組織ではおよそ0.2程度の円偏光度差が得られた。このことから,実験で得られた円偏光度差はがん化による細胞核の肥大化を検出していると考えられるという。また,散乱経路のシミュレーションも行なったところ,散乱経路の広がりは検出角に応じて大きく変化し,検出角に応じて検出深さが大きく変化することが明らかとなった。

これらの結果から,この技術において検出角の変調によりがんの表層からの厚さを見積もることが可能だと考えられるという。一方で,東京工業大学は集積可能な円偏光発光ダイオードおよび円偏光フォトダイオードの作製に成功しており,これらを融合することにより生体内での無染色・非侵襲ながん深達度測定技術が実現可能だとしている。

研究グループは今後,この技術のSpin-LEDを使ったがん診断の実証,がん深達度計測の実証を経て内視鏡搭載型デバイスの開発を進め,実用化を進める予定だとしている。

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