立教大学は,貴金属原子が数十個程度集まった金属クラスターと蛍光性有機色素を組み合わせることにより,エネルギーの低い長波長の光をエネルギーの高い短波長の光に変換する光アップコンバージョンの観測に成功した(ニュースリリース)。
三重項消滅に基づく光アップコンバージョン(TTA-UC)は,増感剤と発光体を組合せ,長波長の光を短波長の光に変換する手法であり,光エネルギー変換技術として大きな注目を集めている。
研究では,安定かつ低毒性な新規増感剤として,有機配位子で保護された金属クラスターに着目した。配位子保護金属クラスターは,その構成原子数や組成を1原子レベルの精度にて精密合成することが可能であり,近赤外域まで光を吸収する能力を持つものが多数存在する。
チオラート配位子(SR)に保護された銀(Ag)原子からなる銀クラスターAg25(SR)18とその中心銀原子が白金(Pt)に置き換わった銀-白金合金クラスターPtAg24(SR)18を増感剤として用い,青色に発光するペリレンまたはTIPS-アントラセン発光体として組み合わせることで,溶液および固体中での光アップコンバージョンの観測・評価に成功した。
有機色素を増感剤に用いたTTA-UCでは,色素骨格に重金属イオンを導入することで項間交差(ISC)を促進させ,効率的な光アップコンバージョンを起こさせる。しかし,Agという重金属原子で構成されたAg25(SR)18クラスターでは,非常に微弱なアップコンバージョン蛍光しか観測されなかった。そこで,Ag25(SR)18の中心金属原子1個をAg原子よりもさらに重たいPt原子に置き換えたところ,波長785nmの近赤外光照射時で強いアップコンバージョン蛍光が観測された。
TTA-UCに関する測定評価と解析を行なったところ,中心Ag原子をPt原子で置換したPtAg24(SR)18クラスターでは,二十面体Pt@Ag12コア内のISCが著しく促進されることが明らかになった。また,Pt@Ag12コアが吸収した光エネルギーが瞬時に表面の配位子(SR-Ag(I)-SR-Ag(I)-SR)に移動し,三重項状態として長寿命に蓄積されるというユニークなメカニズムがあることが示唆されたという。
研究グループは,今後より高効率に機能する金属クラスター増感剤を創出していくことで,エネルギー分野のみならず,バイオイメージングやオプトジェネティクスなどの医療分野への応用の可能性も見いだせるとしている。