広島大学は,量子測定から得られた測定結果に対応する物理量の正確な値を得る方法を発見し,その値が弱値と一致することを理論的解析から明らかにした(ニュースリリース)。
量子力学では測定行為が初期の状態を乱してしまうため,最初の状態での物理量の値を得る手がかりを失ってしまう。そのため,量子力学における物理量の正確な値の実在については今でも未解決な問題となっている。
近年のベルの不等式の破れに代表される数々の実験によって,現在では物理量の値の実在を否定せざるを得ないのではないかという認識が一般的となっている。その一方で実在の否定は,古典物理学との完全な矛盾を引き起こす問題がある。
研究では,最初に最大のコヒーレンスを持つ単一の量子ビットを用意し,量子システムと弱く結合させた。このとき量子ビットは量子システムの影響を受けるため,量子システムの測定後,測定結果に応じて量子ビットの状態が変化する。その変化した量子ビットに,得られた測定結果mに対応するフィードバックを施した。
フィードバックが不適切な場合には量子ビットの状態は元に戻らない。その結果,元に戻らなかった量子ビットの最初の状態からの変化はデコヒーレンスとして現れ,この大きさは研究グループが導入した測定誤差と一致することが分かったという。
この測定誤差は物理量の真値と測定値との差を意味するため,量子ビットを元に戻す適切なフィードバックがわかれば,デコヒーレンスをゼロにできる。量子力学ではフィードバックの量が物理量の値A(m)に対応するため,フィードバックで変化量を当てはめれば測定誤差がゼロとなる物理量の正確な値が得られることになる。
理論的な解析の結果,物理量の正確な値は最初の状態と得られた測定結果の両方で決まる弱値と一致することが分かった。したがって別の測定結果を得た場合には,その測定結果に対応する別の正確な値が弱値として定まることになる。
今回の結果は,物理量の値は測定結果がなければ実在としての意味を持たないことを伝えている。これは実在に関する根本的な問題,「誰も見ていなければ,実在としての意味を持つのだろうか」という問いに対して一石を投じる結果だという。
従来,量子測定は測定結果の統計分布を得るだけであり,物理量の値は得られないものと考えられてきた。この研究の成果は現在の実験技術で十分に検証可能であるため,今後は実験と理論の両方から物理量の値に関する文脈依存性や実在性などの研究が大きく進展することが期待されるとしている。