量研機構ら,酸化ストレスを光とMRIで検出

著者: sugi

量子科学技術研究開発機構,ブルガリア ソフィア大学,ブルガリア科学技術アカデミーは,酸化ストレスに応答して,量子ドットの蛍光とMRIの信号がON/OFFする量子センサーの開発に成功した(ニュースリリース)。

体を傷つける活性酸素の産生が過剰となる酸化ストレスは,炎症を伴う非常に多くの病気と関連していると言われており,酸化ストレスの状態を常に把握し,病気になる前に介入する必要がある。

しかし,病気を発症する活性酸素の量が決まっているわけではなく,活性酸素の産生や抗酸化能には個人差がある。そのため,「活性酸素の過剰な状態(酸化状態)」と「抗酸化の能力(還元状態)」の両方を捉える必要があるが,これまでは両方の状態を捉えるセンサーはなかった。

そこで研究グループは,細胞内の酸化ストレスに応答して,量子ドットの蛍光とMRIの信号がON/OFFする「量子センサー」を開発した。このセンサーは,直径約2nmの量子ドットの表面を,生体に安全なシクロデキストリン(糖の一種)で被覆し,MRI造影剤として機能する化合物ニトロキシルラジカルと結合させたもの。

酸化状態(酸化ストレス状態)になると量子ドットの蛍光が消失し(OFF),MRI信号が上昇(ON)する。還元状態になると量子ドットが蛍光を発し(ON),MRI信号が低下(OFF)する。この様に,双方向のセンサーで,「活性酸素の過剰な状態(酸化状態)」と「抗酸化の能力(還元状態)」の両方の状態を量子ドットの蛍光とMRIと組み合わせて捉えることができるという。

量子ドットは蛍光の輝度が高く,測定技術の改良により,血液サンプルで酸化ストレスを測ることができると考えられる。血液検査等で酸化ストレスが検出されたらMRIにより全身を調べ,体のどの部位で酸化ストレスが強く生じているか検査し,病気が発症する前の段階で治療に入るという医学応用が考えられる。

そこで,生活習慣によって酸化ストレスが生じるモデルとして,マウスに高コレステロールのエサを2カ月間与えて飼育することにより,「高コレステロール血症」になりつつある状態を作った。この状態では,腎臓に深刻な障害はまだ起きていないが,軽度の炎症が生じ,尿にタンパク質が漏れる状態になる。

開発した量子センサーを投与してMRIで撮像した結果,まだ深刻な腎臓の障害が起きる前の段階で,腎臓が酸化ストレス状態にあることを画像で捉えることに成功した。

これらのことから,例えば,健康診断時の血液検査によって酸化ストレスの状態を常に観察することで,重篤な病気が発症する前に予防的な介入をする先制医療に繋がるとしている。

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