順天堂大学と東京大学は,細胞膜に細いガラス電極を当てることで,その細胞の電気活動を操作かつ記録する実験手法であるパッチクランプ記録法に用いるパッチクランプ電極を,緑色蛍光で可視化する手法を開発した(ニュースリリース)。
脳を構成するニューロンには多様な性質があり,それぞれが担う役割も異なる。ここ数年の脳神経回路研究においても,それぞれのニューロンの個性を追求するシングルセル解析が盛んになっている。
ニューロンは電気的な活動にも個性があり,パッチクランプ記録法はそうした神経活動を記録する上で欠かせない手法。近年では,特定のニューロン種を緑色蛍光タンパク質(GFP)で標識することが容易となり,パッチクランプ記録法と蛍光標識の組み合わせによって,より精度の高い神経回路研究が行なわれている。
しかしながら,パッチクランプ記録法はガラス電極を小さなニューロンにアプローチさせるという実験技術者の繊細な手技が必要となる。さらにガラス電極には可視光領域に蛍光がなく,蛍光標識されたニューロンと同時に眼でとらえることができない。これにより記録の成功率が著しく低下していた。
これに対し,ガラス電極に蛍光色素を塗布するという試みがなされてきたが,電極の汚染やスループット面などの問題でほとんど実用化されていないのが現状だという。
そこで,研究グループは希土類イオンの一つである酸化テルビウム(Tb3+)をガラスに添加し,緑色の蛍光波長をもたせることで,GFP標的細胞と同時に可視化できるパッチクランプガラス電極を実現した。このTb3+電極は緑色の蛍光だけでなく,非線形光学効果であるTHGのシグナルも見られた。
このTb3+電極は,生体外および生体脳へのパッチクランプのどちらにおいても標的ニューロンと同時に先端を確認できることから,標的パッチクランプ記録の有益なツールとなるとともに,脳研究におけるシングルセル解析に有用なツールとなることが期待されるという。
このTb3+電極が広く普及すれば,標的パッチクランプ記録への技術的なハードルが下がり、電気生理学研究への発展につながると期待される。現在,研究グループはTb3+添加キャピラリーの商品化を計画中しており,次はこのTb3+電極のコストダウンを課題として取り組むとしている。