豊橋技術科学大は,光スイッチの構造機能の調査への利用が期待される,シアノバクテリアの持つ天然の青色発色団であるフィコシアノビリンを高効率かつ高速に抽出する手法の開発に成功した(ニュースリリース)。
シアノバクテリアは,酸素発生型の光合成を行なう原核生物であり,光合成の集光アンテナタンパク質として,フィコビリソームを持つ。フィコシアニンは,フィコビリソームを構成する色素タンパク質であり,天然の青色食用色素として産業利用が進んでいる。
フィコシアニンは,青色を呈するフィコシアノビリン発色団が,強い結合(共有結合)によって無色のタンパク質に繋がれた構造を持つ。このうち,タンパク質部分は酸性や高温の条件で変性しやすいことから,フィコシアニンの用途は限られていた。一方で,フィコシアノビリンは高温や酸性条件に強く,タンパク質から効率よく遊離させることができれば,優れた青色食用色素としての利用が期待できる。
さらに,フィコシアノビリンは,生体機能を制御する光スイッチタンパク質の発色団として,合成生物学の分野でも利用されている。ところが,これまでのフィコシアノビリンの抽出法は,多くの手間のかかる処理を必要とするなどの課題があった。
研究グループは今回,シアノバクテリア細胞を常温常圧の条件でアルコール洗浄し,クロロフィルなど,非共有的に弱く結合した発色団を除き,窒素ガス下かつ高温(125℃)高圧(100bar)の条件で,エタノールで5分間の抽出処理を3回,合計15分間の処理で,フィコシアノビリンをタンパク質から遊離し,高速に抽出した。
この方法は,食品添加物として利用可能で,産業応用への利用も容易。また,フィコシアノビリンの抽出効率も,既存の方法と同等だという。フィコシアノビリンは抗炎症・抗酸化作用といった薬理作用を持つことが報告されており,より高濃度のフィコシアノビリンを含有する食品や医薬品の開発につながることが期待できるという。
さらに研究では,シアノバクテリアの培養液の組成を改変することで,同位体元素(13Cおよび15N)によって標識したフィコシアノビリンを抽出できることを実証した。同位体によって標識したフィコシアノビリンを利用すれば,振動分光法や核磁気共鳴分光法といった様々な手法によって光スイッチの構造機能を詳細に調べることが可能となるという。
また,フィコシアノビリンを光スイッチタンパク質に取り込ませ,まったく正常な分光特性を示すことも確認した。したがって,今回の技術は,光スイッチの機能の解明や,その性能の改変に貢献できるものだとしている。