東大,定量位相顕微鏡の位相検出限界を突破

東京大学は,光の波面制御技術と暗視野顕微鏡技術を用いて,試料により生じる大きな位相遅れ分布と小さな位相遅れ分布を別々に計測することで検出可能な位相範囲を拡張する新たなコンセプトの定量位相顕微鏡を開発し,位相検出限界を超えることに成功した(ニュースリリース)。

定量位相顕微鏡は計測試料による照明光の位相遅れを計測することで,細胞骨格や細胞内小器官などの形状を非標識で可視化できる。

計測した情報を基に,成長速度などの細胞の状態を定量できる技術として幅広く利用されているが,検出可能な位相範囲はイメージセンサーで検出可能な光量制限に伴う光子数不確定性によって制限されており,これまで高い検出感度が求められる場面では用いられてこなかった。

新手法では,波面制御技術と暗視野顕微鏡技術を用いて,大きな位相遅れ分布と小さな位相遅れ分布を別々に計測することで,従来の定量位相顕微鏡の検出限界を超えることに成功した。

まず,1回目の計測では,従来通りの定量位相計測を行ない,試料由来の大きな位相遅れ分布を持つ位相画像を検出する。次に,波面制御技術を用いて1回目の計測で得た位相画像とは逆位相の波面を持つ照明光を生成する。逆位相波面の照明光により試料由来の大きな位相遅れ分布がキャンセルされるため,暗視野光学系と組み合わせればイメージセンサーに届く光量を著しく減らすことができる。

これにより,2回目の計測の際には1回目の計測時よりも高強度の照明が可能となり,小さな位相遅れ分布のみを信号増幅して高感度に計測することができる。2回目で得られた位相画像と波面制御機器に入力した位相画像を計算で足し合わせることで,ダイナミックレンジを拡大した定量位相画像となる。

今回の原理検証実験では,この手法を赤外光による分子振動吸収により生じるわずかな位相変化を検出する赤外フォトサーマル定量位相顕微鏡に適用し,従来技術に対して約7倍検出感度を向上することに成功した。これは,従来技術で約50枚のデータを取得して平均化した場合に達成可能な検出感度に相当するという。

この手法は,幅広い研究分野における新たな細胞計測ツールとしての利用が期待される。例えば,ウイルス,エクソソームなどの細胞内外の微粒子追跡や細胞内生体分子の動的挙動によるわずかな位相変化計測などへの利用が想定されるとする。

また,今回の原理検証実験のように,外部から光波や音波などの様々な刺激を加えることで起こる微小な位相変化を高感度に定量することで,外部からの刺激に対する細胞の応答の詳細な解析に用いられることも想定されるとしている。

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