東大ら,一原子層単位の深さ精度で鉄を磁性探査

東京大学,量子科学技術研究開発機構,京都大学,弘前大学,らの研究グループは,スピントロニクスデバイスへの応用等に期待される放射光メスバウアー線源を利用して,材料の表面付近の磁性を一原子層単位の深さ精度で調べることが出来る新しい計測技術を開発した(ニューリリース)。

研究では,鉄の表面付近の磁性の謎を解明するために,高輝度放射光源を用いたメスバウアー分光法を利用して金属薄膜の磁性を一原子層単位で調べる新しい計測技術を開発した。

従来のメスバウアー分光法では,指向性が全く無い放射性同位体を線源に用いるため,超高真空という特殊な環境下で,薄膜中の僅か一原子層の“57Fe”のスペクトルを観測することは極めて難しい。そこで,大型放射光施設SPring-8で独自開発した,高強度で指向性高い放射光メスバウアー線源を用いた。その輝度(明るさ)は,通常の放射性同位体メスバウアー線源の10万倍以上もあり,さらに,X線集光装置でマイクロビーム化することで表面付近を集中的に観察できるようにした。

これに加えて,酸化を抑えた清浄な鉄表面を測定するために,大気の100兆分の1の圧力に至る超高真空下で測定できるシステムを構築した。このシステムでは試料搬送容器を,超高真空下で原子層を一層ずつ積み上げて薄膜試料作製ができる装置に組み込むことができる。

また,薄膜試料作製後はこの試料搬送容器を切り離して,超高真空を保ったまま放射光メスバウアー分光装置にドッキングさせることができるようになっている。こうして,注目する原子層に同位体を埋め込んだ鉄薄膜試料を,清浄な状態を保ったままで放射光メスバウアー分光測定ができるようになった。

研究グループは,この技術を用いて,磁石の代表とも言える鉄についてこれまで謎だった表面付近の磁性を詳しく調べた結果,表面から深くなるにつれて磁力が一原子層毎に増減している複雑な現象を世界で初めて明らかにし,この現象が約40年前に理論的に提案されていた「磁気フリーデル振動」であることを突き止めた。

この成果は,人類が数千年にわたって使用してきた材料である鉄における新たな発見という点において,学術的に意義深いものだという。研究グループでは,この開発により実現した局所磁性探査技術の特長を活かして,磁石のミクロな振る舞いにより動作するスピントロニクスデバイスなど高速・省エネルギーな次世代情報デバイスの開発を目指し,磁性材料など異なる材料をナノメートルスケールで積層した多層膜の各層の内部や界面の局所磁性の分析に活用していく予定だとしている。

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