日本原子力研究開発機構,東京大学,東京工業大学、京都産業大学らは共同で,強磁性半導体が常磁性状態から強磁性状態に変化していく過程を詳細に観察することで,原子レベルでの強磁性発現メカニズムを明らかにすることに成功した(ニューリリース)。
次世代情報化社会に欠くことができないスピントロニクス技術の材料として,強磁性半導体が注目されている。スピントロニクスとは,エレクトロニクス材料にさらに磁石の性質(スピン)を付け加えることで,扱える情報量を飛躍的に増大する次世代技術であり,世界中でしのぎを削ってその研究開発が進められている。
強磁性半導体の最大の課題は,低温でのみ強磁性が発現することであり,発現温度の高温化のためには強磁性発現のメカニズムについての正確な理解が切望されている。
研究では,大型放射光施設SPring-8の原子力機構専用ビームラインBL23SUを利用して,強磁性半導体の代表的な物質のひとつである(Ga,Mn)As中のMn原子の磁性情報だけを抜き出し,温度の降下とともにMn原子が常磁性状態から強磁性状態に変化していく過程を詳細に観察することで,原子レベルでの強磁性発現メカニズムを明らかにすることに成功した。今回観測された磁化過程は,理論的に予測されている磁気ポーラロンモデルで(Ga,Mn)Asの強磁性発現のメカニズムがよく説明できることを強く示した。
研究グループは,この研究で明らかにされた原子レベルでの強磁性発現メカニズムについての知見は強磁性半導体の性能向上への鍵となるものだという。これは新規強磁性半導体の物質設計へのベースとなる研究結果であり,既に極低温では実証されているスピントランジスタなどをはじめとした次世代スピントロニクスデバイスの室温動作実現に向けた指針を与えるものだとしている。