京都大学の研究グループは,独自に開発した合成分子を用いて染色体末端に存在するテロメアをリアルタイムで可視化する新たな手法を開発した(ニューリリース)。
テロメアは染色体の末端に存在する特殊な構造体であり,染色体の安定維持に重要な役割を担っている。これまでの研究から,テロメアの長さやその機能異常は細胞の老化やがんなどの疾患と深く関わっていることが明らかとなっている。
これまでに生きている細胞においてテロメアを可視化する方法として,細胞外から人工的に改変した遺伝子を導入する方法が用いられてきた。しかし,より簡単で幅広い応用が期待できる合成分子を用いた手法はほとんど報告がなかった。
今回研究グループは,テロメアDNA配列に特異的に結合する分子と蛍光分子を組み合わせることで,生きた細胞での観察に適した新しいテロメア可視化蛍光分子「SiR-TTet59B」を開発した。SiR-TTet59BはテロメアDNA配列に結合したときに蛍光がONに変わるという性質や,生体に影響を与えにくい長波長領域である近赤外波長の光を吸収・発するという特長を持っており,生細胞でのイメージングに役立てることができる。
このSiR-TTet59Bを用いることにより,ヒト生細胞においてテロメアをリアルタイムで特異的かつ効果的に可視化することに成功した。また,異なる長さのテロメアを持つ二種類のがん細胞を用いてテロメアの可視化を行なったところ,テロメアの長さが長い方のがん細胞においてより強いテロメアの蛍光シグナルが観察された。この結果から,蛍光シグナルの強さを測定することでSiR-TTet59Bがテロメアの長さの計測にも応用可能であることが示唆された。
一般的にこの研究のような合成分子を用いる化学的手法は,人為的に改変した遺伝子導入などを行なう生物学的な手法に比べてより簡便であり,複雑な操作が必要とされない。したがって,今回の研究において開発された手法は,テロメアに関する基礎的な研究や細胞の老化度合いの計測,がんなどの疾患診断などへの幅広い応用が期待されるものだとしている。