桐蔭横浜大学は,鉛ペロブスカイト系化合物に有機キラル分子を導入した結晶薄膜により,フィルターなしで円偏光を検出するフォトダイオードを開発した(ニュースリリース)。
現在市販されている偏光イメージセンサーは,偏光方向が異なる4つの偏光子を備えた偏光子アレイを,複数のフォトダイオードからなるフォトダイオードアレイに積層した構造をしている。
偏光子を透過した直線偏光の信号は,1ピクセル(画素)の情報としてフォトダイオードで電気信号に変換され出力されるが,ピクセルごとに直線偏光の方向を分離するため空間を犠牲にしており,検出感度や偏光消光比,センサーの軽量化などが課題となっている。
また,複屈折を利用して,物体を曲げたときに見られる応力の分布などの状態を円偏光成分の強度から可視化できることが分かっているが,円偏光を検出するためフィルターに波長板を加えるとさらに感度が下がってしまう。そのため,光の偏光成分をフィルターレスで検出する技術が求められている。
だが一般に,円偏光の左右の回転方向を識別する能力「円偏光二色性(CD)」を持つ物質として,光学活性のある有機キラル分子が知られている。しかし,その多くは吸収した光のうち0.1%程度しか左右円偏光の差として認識できまず,偏光を検出するには不十分だった。
研究では,鉛ペロブスカイト系化合物からなる鎖状化合物に有機キラル分子を導入し,系全体にキラル配向構造を誘起した光導電性結晶薄膜を構築した。有機キラル分子と無機材料をハイブリッド化することによって,分子のキラル構造を利用して無機結晶全体にキラリティを誘起する新しい手法であり,膜構造全体に強い円偏光吸収の特性をもたらすという。
さらに,この結晶薄膜を利用し,フィルターレスで円偏光の回転方向を検出するフォトダイオードの開発にも成功した。右(あるいは左)円偏光に対して,左(あるいは右)円偏光よりも非常に高い感度を示し,その検出感度比は25以上と,フィルターレスで円偏光を検出する素子として世界最高値を達成した。
この成果により,偏光をフィルターなしで検出でき,偏光検出の著しい高感度化や装置の小型化が可能になるという。これまで可視化できなかった物体表面の情報や応力の認識などを実現する新しいセンシング技術として期待されるとている。