高エネルギー加速器研究機構(KEK),理化学研究所,京都大学,東京工業大学は共同で,大強度陽子加速器施設(J-PARC)物質・生命科学実験施設(MLF)において表面・界面のナノ構造解析技術である中性子反射率法による,リチウムイオン電池の電極界面の測定に要する時間を大幅に短縮することに成功した(ニュースリリース)。
リチウムイオン電池の大容量化において,電池の開発現場では「充放電中に電極界面の様子を観察して何が起きているのかを知りたい」というニーズが高いが,電極の界面だけを,しかも動作させながら観察できる実験手法は限られている。
中性子反射率法はその限られた実験の一つ。中性子線は透過力が高いため電極の内部まで深く浸透することができ,電解質との界面で反射を起こす。一方,中性子線は大量に作り出すことができないため反射のシグナルは弱く,測定に時間がかかるという問題がある。
研究では,昨年開発した角度の精度がわずか0.001度の超精密楕円型中性子集束ミラーを中性子反射率計SOFIAにおいて実用化し,従来の方法と比べて中性子ビームをおよそ倍の強度で集束させることに成功した。
このミラーは1.5cm角の微小電極試料にも適用可能で,データの質が変わらないこと,そして実際に測定時間が半減することを確認した。これにより,リアルタイム計測においてより早い反応や,薄い膜からの弱いシグナルを捉えることが可能になる。
一方,評価できる膜の厚さは試料面に対するビームの角度に依存しており,装置の設定変更が必要となるため同時にリアルタイム計測することができない。そこで,厚い膜のシグナルと薄い膜のシグナルを同時に捉えるために,試料に対して同時に2つの異なる角度でビームを入射する新手法「多入射反射率法」の設計を検討し,集束ミラーを複数組み合わせることによって,既存の装置でも実現可能であることを示した。
この新手法は実用化の例が無く,実現すればリアルタイム計測における日本発の技術革新になるという。具体的には,これを電極界面に適用することで,今までは膜全体からの厚い膜の干渉しか捉えられなかったのに対し,電極表面の界面層やその内部構造に起因する薄い膜の干渉も捉えることができるようになり,今までおぼろげにしか見えていなかった界面構造が,より詳細に観測できるようになると期待できる。
研究グループは,今回実用化した超精密集束ミラーは世界最高レベルの性能を誇っており,電極試料はもちろん,燃料電池や有機ELといった様々なデバイスに対して中性子反射率法を用いたリアルタイム計測の活用が期待できるとしている。