神戸大学は,ペロブスカイトナノ結晶のハロゲン化物イオンを,形状と発光効率を維持したまま完全に入れ替えることに成功した。また,1粒子レベルの発光観測などから,発光挙動や結晶構造が時々刻々と変わる様子をとらえることで,イオン組成を制御するための指針を得た(ニュースリリース)。
有機ハロゲン化鉛ペロブスカイト(例えば,CH3NH3PbX3(X=Cl,Br,I))に代表される,いわゆる有機無機ペロブスカイトは,高効率な太陽電池材料として注目を集めている。また,ハロゲン化物イオンの種類や組成を変えることで発光色を調整できることから,ディスプレーやレーザーなどの発光デバイスへの応用も期待されている。
一方で,結晶中のハロゲン化物イオンは室温でも動き回ることが知られており,この高い柔軟性が,合成の再現性やデバイスの耐久性を低下させる要因となっている。
研究では,CH3NH3PbI3ナノ結晶と液中Br−イオンの交換反応を精密に制御することで,形状と発光効率を維持したまま,CH3NH3PbBr3ナノ結晶に変換することに成功した。
結晶内部でどのように反応が進行しているのかを知ることは合成技術を確立するうえで重要なため,ひとつひとつのナノ結晶が反応する様子を,蛍光顕微鏡を用いて観測したところ,CH3NH3PbI3由来の赤色発光が完全に消えた後,数十秒から数百秒経ってから,突然,CH3NH3PbBrv3由来の緑色発光が生じることがわかった。
X線を用いた構造解析の結果もふまえると,Br−イオンが結晶内部のI−イオンと置き換わりながら表面にBrを多く含む層を形成し,その後,徐々に内部に移動していることがわかった。
発光が観測されなくなる理由は,イオンが組み変わる際に内部の結晶構造が部分的に乱れ,発光するためのエネルギーを失うためだと考えられるという。その後,粒子内部でCH3NH3PbBr3の結晶核が形成し,それらが協同的に成長することで,突発的に緑色発光が生じる。
これらの結果から,有機ハロゲン化鉛ペロブスカイトの精密合成を成功させる鍵のひとつは,ナノメートルのスケールで起こる結晶構造の組み換えと再構築を時間的に分離することにある。
今回,ペロブスカイトナノ結晶で観測された構造変換過程は,イオン交換に基づくナノ材料合成全般に関係していると考えられることから,さらなるメカニズムの解明が望まれる。また,有機ハロゲン化鉛ペロブスカイトの柔軟性はネガティブな印象があるが,その特徴を活かし,環境や外部刺激に応答する新しい材料・デバイスへの応用展開も期待されるとしている。