北海道大学と青山学院大学は,光エネルギー変換特性を示すレアアース(RE)錯体‐イオン液体の複合化に成功し,これを用いた酸化還元発光応答を示すデバイスを世界に先駆け開発した(ニュースリリース)。
研究では,レアアースを電気伝導性の高い媒体と融合することで,新しい仕組みとして発展が期待される発光性デバイスを初めて実現し,さらに,レアアースの科学的な本質を理解する学術的な知見も見出した。
このデバイスの発光は,紫外線を別の波長に変換できるフォトルミネッセンスによる発光で,電極を連結しレアアースの価数変化で発光色を変化させようとする,新たな仕組みによるもの。ここで用いているユウロピウムは自然界ではで3価の金属イオンとして存在し,紫外線を赤色発光に変換する。
電位をかけるとユウロピウムの価数は2価になり,青色発光を示すようになるが,これまでは2価のユウロピウムが極めて不安定ですぐに3価に戻るため,その価数を維持することが課題だった。
研究では,ユウロピウムが紫外線を吸収しやすく壊れにくい分子の中に組み込み,さらに高いイオン電導性・電気伝導性を有するイオン液体と複合化することで課題を克服した。この分子は,有機分子がユウロピウムに巻き付くように結合しており,分子全体がイオン液体と融合しやすい共通イオンも有している。流動性が高いことで,発光体の立体的な成型や,薄膜化も容易であることから,新たな表示材料としても期待されるという。
さらに,蒸着などによる高密度なレアアースを用いるのではなく,分子の中にレアアースを組み込み媒体に融合させているため,例えば100gのレアアースの原料(ユウロピウム硝酸塩)から約30kgの発光体を作ることができる。媒体に用いるイオン液体は,通常の有機溶剤よりも粘性はあるが,流動性を有し蒸気圧が極めて低く,蒸発して引火するリスクもほとんどないとする。
すなわち,使用するレアアースの量が少なく済む上,環境にやさしい媒体を用いることで省資源型の未来型材料としても従来にない素子に位置付けられる。他のレアアース,例えばテルビウムについては緑色のフォトルミネッセンスを発することがわかっている。
それらを用いたRGB 発光の発現は,2種の発光体(ユウロピウムとテルビウム)のみを極低濃度で調製することで実現できる可能性があり,省レアアース型表示材料としての新たな仕組みを構築する萌芽的研究に位置付けられるとしている。